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小話
髪を洗いましょう 短髪ルーク

髪をあらいましょうの続きの話です

「まあ、珍しい。ルークと一緒ではありませんの」
ロビーのソファに座るガイとティアを目に止めたナタリアが声をかける。
ティアはナタリアの言葉に少し照れたように視線をそらし、ガイは苦笑いを浮かべ答える。
「ルークの奴、ミュウと一緒に買い物に出かけたのはいいんだが、まだ帰ってこなくてね」
髪を切ってからのルークは何かと一人でがんばろうとする傾向があり、今回も手伝おうと声をかけたガイに「大丈夫だから」と言ってミュウと一緒に出かけてしまった。
だがなかなか帰らないルークを部屋で待つことに痺れをきらせてロビーまで降りると、そこで同じように落ち着かない様子のティアと鉢合わせることとなった。
私はミュウが心配なだけよ、と素直じゃないところをみせるティアと向い合って座り、あれこれと他愛ない話を始まる。
だが、宿屋の扉が開かられる度に会話は一瞬にして途切れ、二人してそちらに視線を向ける。
それを幾度も繰り返していた所にナタリアがやってきたのだ。
「迷子にでもなっちまったのかねえ」
足を組みソファの背に身を預けて、はあとため息をつくガイに、ティアの隣に腰を下ろしたナタリアが微笑む。
「ミュウは鼻がききますから、宿にはたどり着きますわ」
「そうだといいのだけど」
その時、扉が勢いよく開かれる。


三人が振り向くと同時に目を見張る。
「お、おい。ルーク」
「まあ、どうしましたの」
「ルーク!」
外は晴天だというのにずぶ濡れのルークがそこに立っている。
「何があったんだ」
駆け寄ってくる三人に、ルークは「なんでもねえよ」と小さく言葉を漏らすと、懐の中にしまいこんでいたミュウを取り出すと、ティアに手渡す。
ミュウもルークと同じように濡れ鼠だ。
「こいつ、任せた」
「任せたって…ルーク、何があったの」
「なんでもねえって」
そう告げると部屋に向かって駆け出す。宿の店主が「ちょっと!お客さん!」と咎めるが、耳に入ってないのかそのまま部屋へと逃げこんでしまった。
「どうしたのかしら」
ガイは宿の主人に何かしら話して頭を下げている。
モップを手に戻ってきたガイがルークが濡らした床を拭きはじめる。
「ガイ、甘やかしすぎよ。ルークにさせるべきだわ」
ティアの厳しい声がすぐさま飛んでくる。
「ミュウ、いったいなにがありましたの?」
ティアの胸に収まっているミュウが「ご主人様にないしょって言われたですの、男の約束ですの」とぷるぷると首を振る。
「ティア、ミュウを乾かしてくれないか」
「あ、そ、そうね。さ、ミュウ、行きましょう」
ティアが身を翻した時、再び扉が勢い良く開かれ、そこに一人の少女が飛び込んできた。


**********


「ルーク」
コンコンと浴室の扉を叩いて名を呼ぶ。
「なんだー」
「お前に水ぶっかけた女の子が心配してたぞ」
ザバーっと勢い良く風呂から上がる音がして、扉のすぐ向こうからルークの焦った声が返ってくる。
「あ、あの子来たのか」
「まあね。わざわざ追いかけてきたそうだ。一言きちんと謝りたくて、な」
「別にいいのに」
「お前ならそう言うと思って、本人に伝えておきますって彼女は帰しておいたよ」
「……わりいな」
「気にするな。身体が冷えるから早く湯に………そうだ、久しぶりに髪を洗ってやろうか」
「はあ?」
扉の向こうでルークの驚く声が返ってくる。
きっと目をまんまるにして口をぽかーんとさせているんだろうな、とガイは脳裏に描いて小さく笑う。
「な、いいだろ。お前が頑張ったご褒美だ」
「あのなあ、俺はガキンチョかよ」
そう言いながらもごそごそと何かしている音の後、浴室の鍵が外された。
「まあでもガイがやりたいっていうなら、やらせてやる」
腰にタオルをまき、腕を組んで胸をはって立つルークにガイは笑いながら
「はいはい、お世話させてください、ご主人様」と軽口を叩く。


「ほら、身体が冷えてる。湯に戻れ」
「わかった」
ルークが湯に浸かったのを確認してから剣を置いてベストを脱ぐ。
袖を手早く捲りタイツをふくらはぎまでひきあげながら、ふと数ヶ月前の出来事を思い出す。
マルクトで合流し初めての宿に泊った時、部屋に入るなり「髪に洗い方教えろよ」と顔を真っ赤にしたルークがまざまざと浮かんでくる。
手にしたタオルを湯で濡らし、浴槽の縁とルークの首の間に差し込む。
あの時とは違い浴槽からこぼれ落ちる髪はもうない。
シャンプーを手に取り泡立て、短くなった赤い髪に指を入れる。
指の腹で優しく髪を洗いながら
「で、どうして逃げたんだ」とルークに問いかける。
気持ちよさそうに瞼を瞑っていたルークの眉が寄せられ皺が刻まれた。
「ちぇ、聞き出すために髪を洗うとか言い出したのかよ」
「そんなつもりはなかったけどな」
「あの子、店先でホースで水まいてたのはいいけど、丁度通りかかった俺らにぶっかけてさ。そうしたら店の奥からすんげえ怒鳴り声がしたんだ。
『お前、またやったのかー』って。あの子怒られんのかなあって……
顔を真っ青にしているあの子が可哀想になって『平気だから』って言ってその場から逃げたんだ」
詳しい事情を聞いてガイは、しょうがない奴だな、と言いながらもうれしそう笑っている。
「だって、あんまり人が怒られてるところ見たくねえっていうか」
「まあ、気持ちはわかるがな。でもその場から逃げたのはいただけないな。
あの子にもちゃんとお詫びを言わせなきゃいけなかったんだよ。だからあの子はお前を探してこの宿まで来た。そうだろ」
「……うん」
ゆっくりを瞼があがり、緑の瞳がまっすぐこちらを見上げてくる。
「俺、また失敗したな」
情けない声を出すルークに、殊更ガイは陽気に言葉を返す。
「失敗かどうかはともかく。俺はお前のそういうところ好きだよ」
その言葉にルークは半目になって
「お前、軽はずみに好きだのなんだの言うなよ」と冷ややかに言った。
本心なんだけどなあ、という言葉は胸の内だけで留めておくことにする。



極端から極端なところもあるけれども、真っ直ぐで。そして不器用で。
そのせいで傷つく事も沢山あるのに、それでも向きあう事を止めようとはしない。
強くて弱くて優しくて健気でお馬鹿で、そのくせ曲げないでいて。
どんどん離れていく。
どんどん俺の手を必要としなくなっていく。
嬉しくて寂しくて。
おかしいな、でもこの頃嬉しかったり誇らしい気持ちよりも、寂しい想いが上回ってしまうんだ。



無言になったガイに、ルークは戸惑い気味に「ミュウは?」と問いかける。
その声に、ガイは、はっと意識を戻し無理に笑顔をつくる。
「ああ、今頃はティアが毛を乾かしているところだろ」
カランを手にしてシャワーを出す。
泡まみれの自分の手を流すと、ルークに浴槽からあがるように告げる。
「そっか」
ほっとしたように息をついて、それからぽつりと零す。
「ガイなら…うまくその場を取りなせるんだろうな」
頭から湯を流されている最中の小さな呟きだったが、ガイは聞き逃さなかった。
「……まあ、俺ならそもそも水ぶっかけられるようなヘマはしないだろうな」
「んだよっ!」
いつもの軽いじゃれあいだとわかっていたのに、さっきから引きずっていた照れくささから過剰にルークは反応した。
勢い良くガイの方に顔を向けようとし、ガイはシャワーがルークの顔にかからないように避けようし、バランスを崩した。
「っ、おっ」


「なんかこの展開は見覚えがあるな」
「……ごめん」
頭からシャワーを浴びて濡れ鼠になったガイがそこにいた。あの時と同じようにシャツがべったり張り付いている。
「いいよ、どうせだから一緒に入るか」
ガイの言葉にルークが「はあ?」と一瞬驚いた後、ぶんぶんと頭を振って「ダメだ!!俺、すぐ上がるから、お前は、その、服を脱いでろよ」と言うやいなやザブンと音を立てて湯に浸かる。
確かに小さな浴槽だが、詰めて入れば……なんとか……やっぱり無理か。
と独り言ちると、カランを戻し濡れた服を脱ごうと脱衣所に向かう。
その背にルークの声がかかる。
「……ごめんな、ガイ」
「いいって。俺の方こそ悪かったよ」
「いやもう違うんだ。そのことじゃなくて、本当にごめんな。素数かぞえればいいって聞いたから、もうちっと待ってくれよな」
顔を真っ赤にして湯船の中で前かがみになっているルークに、ガイは疑問符をいくつも頭の中で浮かべた





同じくこれもナナさんに個人的に書いたお話です
ルークの心配してソワソワ落ち着かないガイとティアがかけて満足です
以前もかいたように三部作の構想はあるので、最後のED後も書きたいなあ…と考えています。
いつになることやら…なんですけど

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あきゅろす。
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