雲珠桜は夏に彩る 残された者達07 「んじゃ早速!」 「ぬおっ……!?」 肩をガシッと程ほどの力加減で捕まれたかと思うと、私は体を半回転させられた。 何をするつもり……と声をかけようと思うとその前に、背中から温い温度が伝わってきた。 「なっ……ちょっ!!」 「ユカってやっぱ、落ち着くのな!」 「へっ!?」 何と言うことだろう。あっという間に私は山本の腕の中にいた。 私は必死で野球と修行かなんかで鍛えられたこの逞しい腕から逃れようとするが、所詮は女と男の差。もっと言えば一般人とマフィアの差。どうあがいても私が勝てるわけはなく……疲れ切って結局はこのままの形となった。 「……山本ー?」 「んー、なんかこうしてっとモヤモヤがこう……パァって無くなってく気がすんだよなー」 「私は人形か」 「ははっ、それもいいのな!」 「よかねーよ」 山本の吐息が首にかかる。それだけで私は固まってしまう。そして、吐息と一緒に言葉も吐き出された。 「あー……迷惑だよな?こんなの……」 「え……」 その声はさっきよりか細く、今にも消えてしまいそうな。 先ほど何かあれば相談に乗る!と啖呵切った様な物の後なので、相談という形では無いとはいえ、縋られてる形になっているのを拒むなんてことは出来ない。きっと深い意味はないのだろうし、意識することも違うとは思うのだが…… 「め、迷惑じゃないよ?迷惑じゃないけど……人目が気になると言いますか……」 恥ずかしいと言いますか。 まさか嫌悪感なんて出てくるわけないし、迷惑がってるつもりもない。……だが一応私も思春期の女で、恥じらいの欠片位は持ち合わせている。こんな事に慣れている私ではないので、正直……何と言うか、反応に困ると言うか…意識、しちゃってるのだろうか。 ああ、こんなの私らしくもなければ、恥じらっている自分が気持ち悪い。 この事が上手く説明できる気がしなくて、だけど変に山本に勘違いさせないよう、私は声をあげた。 いや、でもこれって人に見られたら誤解されるよね。端から見たら絶対あれだよね、その……カップルが……イチャイチャしてる?みたいな? それはヤバイ。完璧に女の子のジェラシー買うことになる。大量にジェラシーお買い上げ何て嫌だ!私は等価交換出来る様な物なんて持っていないんだから! その時私は深い(?)羞恥の中に嵌まってしまっていたので、山本のことまで気にする余裕はなかった。だから気づけなかった、山本が私が考え込んでいる姿を見て、少し寂しそうな感じの表情になったことを。 [*前へ][次へ#] |