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雲珠桜は夏に彩る
それぞれの覚悟







「ハアッ…………ハアッ…………」


「おい、止まれ!」


「誰が止まるか、クソじじいっ」






町中を全力疾走で駆け回る。息切れが激しい中、ユカは小さな声でモゴモゴと追いかけ回してくる男達を罵倒する。

ユカは後ろを気にしながら前方に曲がり角を見つけ、そこを必死に曲がる。後ろを振り向くと、男達はぴったりと後をつけてくる。
もう嫌だ。気持ち悪い。生理的に熱いものが流れてきそうだ。

元々雲雀宅を目指して走っていたはずなのに、いつのまにか行く先には男達が現れ先回りされている。人数も最初は一人だったのに今はなぜか三人になっている。その中で見覚えがあるのが一人と言うことには少し救われた。






「…………っは、きっつ…………」






喉になにかがつまり、息がむせる。男達はそれでもきっちりと後ろにいた。
このままでは持たない。そう感じた。






「……ちっ、猿よりすばしっこいやつめ!これじゃ埒が明かねえ。おいあれ出せ!」


「あれ?」


「あれだ、例の奴!」


「ああ。これか」






背筋が…………凍る。
ただえさえヤバイと言うのに、これ以上何かされたら。
後ろでガチャリと金属の擦れる音が鳴り響く。





「…………っ!?」





…………拳銃の音。
それは一発で分かった。

その音から逃れようと足に力を込めるが、思うようにはスピードが上がらない。それとも飛び道具を出された今、どんなにスピードを上げようが変わらないのだろうか?
後ろで準備しているのか、ガチャガチャと騒音が嫌でもまとわりつく。その音が余計に私の心を急かした。
だんだん気持ちに追い付かなくなってきたあしが縺れていく。



ガッ…………。





「あっ…………っ!?」





気持ちを優先しすぎて足が留守になった。必死に体勢を戻そうにも足が蹴るのは空だけ。しかも虚しくスカスカと空ぶる。


ここで転んだら…………もう終わりだ。



恐怖に気持ちを預けたユカは、身を固くした。





「…………?」





視界の端に…………黒い物が見える。
この状況からして、死神のマントだろうか?もしそうなら、私の命を奪いに来たのか?
でも、奪われる前に一度だけでも、少しだけでもと見ようとした死神の姿は、大きな鎌ではなく銀色に耀くトンファーを持っていた。





「君達…………









なに群てるの?」





怒気の入り雑じったその声。私は地面に倒れることなく何かに支えられた。
視界は真っ黒。聞きなれたはずの声はいつもより低く、背も私より全然高い。なのにこの安心する匂いだけは変わっていない。
抱き止められて思わず上を向いたら、その顔は太陽のせいで逆光になっていてよく見えなかった。





「なっ…………お前っ!」






さっきまで鼬ごっこをしていた男達の焦りが混じった声。
それを掻き消すかのように私の目の前の人物は言葉を重ねてゆく。






「ふーん…………君達、いい度胸じゃないか。僕の並盛の風紀を汚した上に、ユカを泣かせた」






そういって目の前の人は私の目尻に大きくて冷たい手を当てる。そうすると何故か、熱いものが流れた。



…………私、いつの間に泣いてたんだろ。



ハッと気づいた私は、急いで涙を掬いとる。





「なっ…………だ、大体お前、この時代の人間じゃねえだろ!」


「僕がかい?…………君、口は慎んだ方がいいね。口は災いの元だというだろう?」





…………次第に、太陽が雲で隠れ出す。少しずつ人物の輪郭がはっきりしてきた。






「っ?!」


「…………時代は関係ない。今がいつだろうと並盛は僕の物だ。並盛の風紀は秩序である僕が正す」





雲が完全に太陽を覆った。そして見えた顔。



…………ああ、やっぱり。




輪郭だけじゃなく、はっきり見えたその傷だらけの顔は間違いなく『十年後』雲雀恭弥の顔だった。





…………そして怒りを露にしたその顔は死神より恐いものだったかもしれない。









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