雲珠桜は夏に彩る
大空の本音01
「草壁さん、今日も美味しいです!」
「そうか?お代わりも一応あるからな」
「草壁さん、良いお母さんになれますよ」
「………父親じゃなくてか?」
テーブルに並べられた数々の料理。今日までは、私が大会で疲れていると言うことで草壁さんが雲雀家の食事を担ってくれた。
家事をしないって事がこんなに楽だったとはと、何故か疲れきったおばさん主婦のコメントが頭に浮かんでくる。
雲雀さんだって文句のひとつも言わず食べているのだから万々歳だ。
私は一通り食べ終わると小さくご馳走様を行って席を立ち、キッチンの奥からタッパ等を取り出してきた。
「何するつもり?」
私の行動に、雲雀さんも一時食事の手を止めて覗き込んでくる。
「ツナに分けようと思って。まだ外に居るみたいだし、流石に寒い中ご飯も無かったら可哀想でしょう?それぐらい良いですよね?」
「………あの草食動物、まだいたんだ」
再び眉間にシワを寄せる。
外に放り出しただけでも十分な仕打ちだと思うのに、それだけじゃまだ足りないらしい。
ついでに一応草壁さんにツナの事は、ツナの伯父さんと説明しておいた。
私はそれを見て苦笑を漏らしながら椅子から立ち上がった。
廊下に私のスリッパの音がペタペタと鳴る。
「流石にツナ、怒ってるかな。……こっそり中に入れる?」
でもバレたら怖いし。
雲雀さんの事だ。有言実行、私まで外に放り出されるなんてごめんだ。だからと言って、本当にこのまま見て見ぬ振りも出来ないだろう。ツナもあの姿で奈々さんの元へ行くわけにもいかないだろうし、行く当ては絞られる。私はうーんと唸った。
「あ、でも私の部屋に入れさえすればバレないかも」
普段私の部屋に寄ってこない雲雀さん。入ってくることは滅多な事が無い限り無い筈なので、バレる確率は低いはず。
そうだ、そうしよう。
そう私の中で勝手に決定して、ドアノブに手を掛けた。
「ツナ、大丈夫?よかったら…………」
「あ、ユカ!」
寒いのでちょっとだけドアを開けてツナの居るであろう場所に目を向ける。
…………そして、目を見開いた。
「いやー、結構思ったより寒くなってきたからさ。焚き火始めちゃった☆」
「…………雲雀さーん!不審者が庭で焚き火始めてまーす!!咬み殺しちゃってください!!!」
「え、ユカ?」
有無を言わさず、言い訳も聞く前に私は奥に居る雲雀さんに向かって叫んだ。
すると雲雀さんは私を待たすことなく、無言でこちらに駆け足でやってくる。
「咬み殺すっ!」
「やっちゃえー、雲雀さーん」
「ユカ、棒読み怖いよ」
知るか。コノヤロー。
人んちの庭で勝手に焚き火始めるのが悪い。
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