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雲珠桜は夏に彩る
そして季節は巡りくる08







「………それで、何の用だい?わざわざ群れて咬み殺されに来たのかい?」


「二人が雲雀さんに、話があるそうです」


「話?」





自分達はそのまま足を応接室に向けた。その時間はちょうど雲雀さんも応接室にいたので、探す二度手間が省けて済んだ。

そこまで辿り着くまでの二人は静かなもので、自分も二人が雲雀さんに何の用があるかなんて聞かなかった。二人は固く口を結んでいて、そんな雰囲気ではなかったのだ。だから、今から何をこの二人がやるのかなんて全く想像つかなかった。
あえてキーとなるものと言えば………京子ちゃんの手に握られている、一通の封筒だろうか。差出人はうまい具合に見えないが、あて先は雲雀さんになっているのがかろうじて見えた。

京子ちゃんは雲雀さんに怪訝な視線を向けられたことを確かめると、ハルと顔を合わせた。そして二人ともこくりと頷き合う。





「雲雀さん………あの、ユカちゃんへの手がかりを探しているって本当ですか?」


「………」


「え………だってユカちゃん、自分の世界に帰ったんじゃ」


「……、君達には関係ない事だよ」


「!もしそれが本当ならハル達にも関係あります!」





これ、読んでください!
ハルは京子ちゃんの手から封筒を受け取ると、一直線に机へと大股で歩き、そして机にバンッと派手な音を立てて置いた。思った以上に手に衝撃が来たのか、少しハルは顔をしかめていた。





「………これは」


「ユカさんからです!!」


「!」


「私達、未来でユカちゃんから手紙を受け取っていたんです。こうなった時………ユカちゃんがいなくなった時、雲雀さんに渡してほしいって。ユカちゃんから渡されていたんです」


「………ハル達は勿論読んでいないのでどんな事を書いているのかなんて知りませんが、それでも今の雲雀さんに伝えたいこと、書いてある筈です!」


「え………ええ?!いつの間ユカちゃん、そんなもの、」


「………は、ユカは最初から向こうに帰る気だったんだね……」


「そういうことも全部言うのは、それを読んでからにしてください!」


「私達は失礼します」


「え………ちょっと二人とも」





京子ちゃんとハルは用が済むとすぐに応接室を後にした。これだけなら自分が付き添うこともいらなかった気がするが、と思ったが、今はそんなことより。





「ね、ねぇ………二人とも、あの手紙」


「………私達、一度風紀財団のほうでお泊りしたこと、ツナさん覚えていますか?」


「…………あったっけ?」


「あったんです!!」





足並みの早い二人に必死に追いつくように歩幅を合わせ、手紙の件を聞こうと声をかければ二人はすぐに足を止めた。どうやら話の流れから説明してくれることはすぐに察しがついた。………そして聞いた。

京子ちゃん達がユカちゃんと一緒に風紀財団に泊まり込んだこと。
ちょっとしたイタズラ心から、十年後の雲雀さんの部屋を覗き見ていたこと。
…………そして、見つけた十年後の俺が雲雀さんに宛てた手紙。それを見てユカちゃんが涙を流したこと。
聞けばそれがユカちゃんが手紙を書くきっかけになった出来事だったという。そしてユカちゃんは、その手紙を後にこの二人に預けていた。





「向こうの雲雀さんは………自分の事を顧みずにユカちゃんの事探してたみたいなの」


「はひ………ユカちゃんは何よりそのことを心配していたようなんです。」


「そっか」





だからこの二人は、雲雀さんがユカちゃんへの手がかりを探しているって聞いて、あの手紙を渡しに行ったのだ。何ともユカちゃんらしい。自分が元の場所に帰っても、そんなところまで気を回しているなんて。
いや、それが二人の愛の形なのだろうか。二人ともお互いを精一杯必要していて、求め合っていて、支えあって、大切にしあっている。たとえ離れ離れになったとしても。





「………だから、ツナ君に時々でいいから雲雀さんの様子を見ていてほしいの。雲雀さんが無理しないように。きっとそんなのユカちゃんが悲しむだけだから」


「うん、わかったよ」





そんな話を聞かされて何もしないなんてことはできない。ツナは不安そうにしている二人を励ますかのように、フワリと笑うと、任せとけと言わんばかりに自分の胸を叩いた。ちょっと力みすぎて、ツナは軽く咳込んでしまう。
なかなかこういう所で決まらないなあと思っていると、二人とも堪えが効かなくなったのか、一斉に他の方を向いて噴き出した。ツナはその一瞬に呆気にとられたが、結局最後は三人で笑ってしまった。

その時は、その時だけ久しぶりの心穏やかな時間が流れていた気がした。






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