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雲珠桜は夏に彩る
そして季節は巡りくる02







出てきそうになった涙を必死に堪えて。鏡の前で、何でもないようにと無理矢理頬の筋肉をあげて笑顔を作って。
そうして不自然じゃないことを確認してから私は、風紀財団の基地へと向かった。

ドアをくぐれば一変して変わる基地内の雰囲気。それすらも懐かしんでいいると、気付けば脇には草壁さんがいて。涙を浮かべたそうな、でも必死に堪えているのが分かって、私は苦笑を漏らしながら「ただいま、です」って言ってみた。すると草壁さんは感極まったようにお帰りなさいと言ってくれ、すぐに私に背を向け「………恭さんの所まで、ご案内します」と言ってくれた。
私に背を向けるときに光るものが見えたのは見なかった振りだ。





「雲雀さん?」


「………ユカか」





入っていいよと、聞きなれたはずの声が私の耳に届く。もう少しで離れ離れになってしまうことを思ってしまうとまた目頭が熱くなりそうだが、今は余計なことは考えまいと頭を横に振った。





「雲雀さん、ただいま」


「…………やっと帰ってきたね」


「あはは。うん、ちょっと皆と話し込んじゃって………ええ!?」


「うるさいよ」


「ああ……ハイ…」





ドアをくぐり、雲雀さんの元へ寄ろうと思って一歩踏み出したはずが、私は一瞬で雲雀さんの腕の中にいた。どうやらあの一瞬で彼はこっちに来たようだ。
流石雲雀さん………





「お帰り、ユカ」


「………そんなこと言ったら泣いちゃいますよ、私。いいんですか」


「まあ……別に君の泣き顔が嫌いなわけじゃないけど。どうせなら逆がいいな」


「っ〜〜〜〜!!!」





アホッ!だなんて雲雀さんに恐れ多い言葉を零して、私は雲雀さんの胸に自分の頭を擦り付けた。うまく自分の顔を見られないように。雲雀さんは私の考えなんてすぐ見抜いて、私の頬を両手で挟んであげた。涙と一緒に赤くなった目などを隠していた私は正直見られたくない顔だった。
案の定私の顔を見て雲雀さんは、ふっと笑った。





「相変わらずひどい顔」


「相変わらずってひど………だから隠してたのに」


「無駄な努力だったね」


「むいぃ………ひ、ひっぱらないで…」





雲雀さんはその後、私の頬をじっくりと堪能?し、存分に遊んで気を済ませるとようやく離してくれた。おかげで涙は引っ込んでいったけど、その分頬は軽く色づいてしまった。





「さっきまで群れていたお仕置きだよ」


「む、群れてたってあれは雲雀さんも承認済みだったじゃん。………お仕置きがこの程度で済んで喜ぶべきなのかそうでないのか」


「ワオ。喜んでるの?」


「断じて違う!」





頬を引っ張ることがお仕置きなのならば、それは雲雀さんが言うお仕置きにしてみれば可愛い方なのかなと思ったりはしたが、決してそれがうれしいわけではない。
咬み殺されるよりは全然いいという意味であって、私はМなんかじゃないぞ。





「………あ、そうだ雲雀さん。何か私にしてほしい事とかない?」


「やってほしい事かい?」


「そう。なんかずっと迷惑かけてばっかだったからさ。何かしたいと思ってたんだけど、でも何も思いつかなくて。どうせやるなら喜んでほしいし、本人に聞いた方が早いかと思って」


「してほしい事ね………あるよ、ひとつ」


「え、何?」


「ユカの料理が食べたい」


「!」





ぼそりと雲雀さんが呟いた。私はその言葉に驚いて目を見開いた。
………雲雀さんがはっきりとそう言ってくれるのは、初めてかもしれない。
雲雀さんが今度は自分の番だというように私から顔をそらすと、そのタイミングでヒバードが頭の上に舞い降りていた。





「フフッ………うん!じゃあ今日の夕飯はハンバーグだね!」


「久しぶりだからって失敗はないからね」


「頑張ります」





いつも………雲雀さんの家に居候して平和でにぎやかだった時のままの会話。まるで数日前の決戦が嘘のようだった。

頑張るぞ、と意気込んでいるユカを見た雲雀は、思わず表情の筋肉を緩める。

自分は彼女を守れたんだと思った。今まで並盛の秩序にしか目が向かなかった自分が、初めて湧いた感情に突き動かされて守りたいと思った。自分にその行為は余りにも似遣わなくて戸惑うこともあった。だけどそんな事を考える前に自分は体を動かしていた。

そしてそれが達成できた今………とてつもない充足感に包まれている。それは彼女がいなかったら得られなかったものなのだろう。もしも本当に幸せというものが感じられるのなら。きっと今自分が感じているのはそれなのだろう。そう思った。





「………?」





だから、一瞬ユカの手が透けて見えたのは気のせいだと、その時は深く考える事はなかった。




















ましてや、彼女との別れが近づいているなんて。







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あきゅろす。
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