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雲珠桜は夏に彩る
そして季節は巡りくる







「………本当に、それで良いんだね?」





いつか、こんな日が来るってことは頭の隅で理解していた。





「はい。………でも、大丈夫ですか?」


「この天才を舐めるなよ。ミルフィオーレの科学力で出来たのなら、私にできない道理はない」


「はは、そうですね」





だけどそれは自分でも、こんなに急にくるとは思っていなかった。




*****




私が帰る決断をしたこと。アルコバレーノのヴェルデが、そのための手段を模索してくれること。私は雲雀さんがいない、皆の前で告白した。





「皆………私、帰ろうと思う」


「……え?」


「自分の世界に帰ろうと思うんだ」


「「「!?」」」





私の突然の申告に、皆は一瞬言葉を失った。私は誰かに言葉を紡がれる事が怖くて、皆の方を向く事をせず、俯いたまま言葉をつなげていく。


あのね、ヴェルデさんがあの丸い装置を応用して私が帰れるようにしてくれるんだって。
白蘭も出来たなら自分が出来ないはずがないって。凄い自信だよね。
でもちょうど良かった。これを逃せばいつ帰れるかも分からないし、丁度潮時だよね?


こんなときだけ言葉がすらすらと出てくる。自分でもそれには驚いた。今、自分の頭は真っ白なのにこんな言葉が一体どこから湧いてくるのだろうかと。
皆は私の言葉を受けて、戸惑いを隠せないという様子で私の方を見た。





「ユカちゃん………?こんな時に冗談なんて」


「冗談じゃないんだ、これが」


「でも、また会えるんだよね?」


「………」


「!だって………だって、帰ったら色んな所に遊びに行こうって、ナミモリ―ヌにだって三人で行こうって約束したじゃないですか!!」


「………ごめん、二人とも」





私がそう言うと、二人は眉を下げて眉間にしわを寄せた。
………きっと今の私は凄い顔をしているんだろうな。
二人にこんな顔をさせてしまうほどの。今私は笑みを浮かべているつもりだが、実際はどうなんだろうか。ぐちゃぐちゃな顔をしているんだろうか。





「ユカちゃん……」


「……?」





ツナが、一歩前私の方に進み出た。彼も眉間にしわを寄せていた。
悲しんでくれているのだろうか。だとしたら、不謹慎だけど嬉しいと思ってしまう。





「それはもう変わらないの?本当に帰るの?」


「うん、変わらない」


「理由………聞いていいかな?なんでそんな急に」


「………」


「ユカちゃん」


「………ごめん、私が伝えたかったことはこれだけだから」


「!!ユカちゃん………っ」





何も告げたくない。そんな意思を差し出したユカはさっさとこの居心地の悪いここから抜け出そうと踵を返すが、咄嗟に掴まれたツナの手によってそれは憚れる。思わず体をビクッと震わせるとツナも慌てたように手を離した。
しまった、こんな態度を取るつもりは無かったなのに。こんな雰囲気を作るつもりも無かったのに。





「………分かった、理由は言いたくないんなら言わなくてもいいよ。ユカちゃんが言ってくれる気になるまで待つ。だけど雲雀さんはもう知ってるんだよね?」


「………まだ」


「え……で、でも言うんだろ?」


「………」


「!!」





ツナの言葉に私は答えることが出来ず、言葉を飲み込むように俯く。その様子を見てツナは、驚愕の表情を浮かべた。いや、ツナだけではない。そこにいる皆が、だ。





「そんな………なんで!」


「………言う、よ。ちゃんと私から。でも…」


「ユカちゃん」


「ごめん。ちゃんと言うから、皆からは言わないで」


「………」





ちゃんと言うから。多分、今の私を見ればそんな言葉に説得力が無いんだろう。怪訝な顔をするツナをみて、ユカは心の中で苦笑を漏らした。

言わないつもりなんじゃない。言えないんだ、多分。

これと言ったハッキリとした理由があるわけではない。だけど、私は雲雀さんを前にしたら何も言えなくなるんだろうと簡単に予想付く。帰ると告げることは、私から別れを告げることと同意なのだ。私は雲雀さんのことが好きだと今では断言できるし、出来ることならずっと一緒に入れればとも思う。だけどダメなのだ。それは叶うことはない望み。

そうするのは私の判断による物だけれど。





「………本当に、ごめんなさい。だけど、こんな私だけど今まで仲良くしてくれて本当にありがとう」


「ユカちゃん………」


「はひ………っ、ハ、ハルはまだそんな言葉聞きたくありませんっ!」


「ユカちゃん………まさか、すぐに帰っちゃうの?」


「ううん。まだヴェルデさんが頑張ってくれてるから。ちゃんと帰る時はまた言うよ」





私はそう言い残すと、その場を逃げるように去った。

ユカが去った後のその部屋は、まるで嵐が過ぎ去った後のように静けさを残していた…………。






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あきゅろす。
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