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雲珠桜は夏に彩る
結局運命と言うものは05







白蘭は光に包まれていく中、自然と自分の心が落ち着くような感じに陥っているのを静かに感じていた。

マーレリングを受け取ってから………いや、正確には受け取るちょっと前から、自分の人生に転機が来ていることは肌身をもって感じていた。

パラレルワールドに飛べる自分の能力。
マーレリングの力。
トゥリニセッテの持つ力の偉大さ。
ユニという少女の存在。
自分を倒した沢田綱吉と、それらに付き添う仲間達。
そして、異世界と言う所から飛んできたという笠原ユカ。

これらの全てがゲーム盤上の自分の前に現れて、自分でも驚くほどの鳥肌を立てたことは今でも覚えている。ただの景色にしか見えなかった社会を自分の力とこれらの物で楽しめるゲームに変えることができるのだ。しかも最後の世界には隠しアイテムのような存在までちゃんと用意されていた。
白蘭はこのゲームをコンプリートする気満々だったし、実際その目的にあと一歩まで手が届きかけていた。数えきれないほどある筈の他のパラレルワールドでは実際制服は成功していたのだ。あの各時代のボンゴレファミリーのボスである沢田綱吉を倒して。





「(なのに、最後の最後でちっちゃい綱吉クンに倒されちゃうなんて)」





隠しアイテム、なんて揶揄してみたが、正直予想外だった、ユカという存在が現れることも。思わず白蘭の口から笑いが漏れた。





「(………あーあ)」





結局、ユニには振られ、綱吉クンとユカチャンから賛同を得ることはなかった。





「僕はこの世界は自分には合わない。ユカチャンも薄々感じてるんじゃないかな」


「………甘い」


「自分が世界に合わない?………バカじゃないの。何言ってんの。白蘭はれっきとしたこの世界の人じゃん。白蘭は私と一緒なんかじゃない。ふざけないでよ!」






正直な話。今となっても何故ユカがここまで怒りを露わにしたのか、今でも分からなかった。まるで自分自身を否定されたかのような。口調では怒りを露わにしていたが、表情は絶望したような、悲しみを思いっきり出していたのだ。きっとこのことに気付いたのは自分だけだろう。

確かに自分はこの世界を信じていなかった。この世界で人間をやっていることが違和感でしかなかったからだ。自分をゲームに取り込まれていた「意識」とまで認識していた。だから、ユカとはそういう意味で共通点を持てると思っていたのだ。共感しあえると思っていたのだ。
………だがそこを突いて得たのは彼女の地雷。踏み入ってはいけない場所を踏んでしまったようだった。





「(目の前の綱吉クンもこの世界が気持ち悪いなんて一切考えていないみたいだし………)」





ユニだってこの世界を大事にしていた。だから自分の命を捧げてられた。この三人は敵であろうとも自分の考えを理解してくれると思っていたのに。
彼らと自分では何が違ったのだろうか。ふとそんなことを考えた。

そこで目に入る、結界の外にいたボンゴレファミリー、ヴァリアー、ジッジョネロファミリーの面々。





「………もしかして、仲間?」





自分になくて三人にあるもの。………仲間。





「(確かに………桔梗達は仲間っていうか手駒っていうか、部下っていうか………正チャンは友達だし。あ、もう敵だったんだっけ?他には………)」





………もしも自分に仲間という不確かなものがあったとしたならば、この世界は自分に何の力がなかったとしても、この人生を楽しむことができたのだろうか。
まあ今更だけど。





「………?」





ユカちゃんが、泣いてる………?
泣いている、というのだろうか。だけど確かふとユカの方に目を向けてみれば、遠目からでも分かるくらいくっきりと一筋の涙をユカは流していた。なのに傍にいる者は誰一人気づいていないようだ。

まさかね。僕の為にユカちゃんが泣いてくれている訳ないか。そうだな、ユニちゃんの為に泣いているのかな?それとも綱吉クンが僕に勝てたから?過去に帰ることが出来る事に涙するほど喜んでいるとか。そっちの方がありえそうだ。
だけど………たとえそうでなくても、自分が死ぬって時に女の子が泣いてくれるのは…気分悪くないね。




「(…あ、そういえば)」




考えたら僕、ユカちゃんの笑顔、一度も見てない気がする。

彼女にやってきたことを考えたら当然だ、白蘭はすでに痛みも感じなくなってきた中で苦笑を漏らした。
彼女を自分のものにしようとする勢いのあまり、彼女には多分、怖い体験をたくさんさせた。だから彼女が自分に見せた表情と言えば怯え、泣き顔、虚勢、怒りのいづれかだっただろう、多分。そんな顔を見せる彼女もまぁ十分に可愛いと言える物だったのだけれど、やはり何事も笑顔には敵わない。
最後に一度だけ自分に向けられたものでなくてもいいから笑顔も見たかった気がするけれど、頼もうにも今彼女は意識を飛ばしている。





「(ま、いっか)」





いつかどこかで見せてもらうさ。

白蘭はゆっくりと目を閉じた。何も見なくていいように、ただ清々しい笑顔だけを浮かべるために。

そして、ゆっくりと沈んでいくように光に包まれていく感覚に身を委ねた。




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