雲珠桜は夏に彩る
こんなはずじゃなかった12
どうして僕はこんなに無力なんだ。
ユカを前にすると、いつもそう思い知らされる。ここまで自分に運が無いとは思っていなかったと、雲雀は心の隅で何となくそう呟いた。
………いや、実際の所、運だけの問題ではないのかもしれない。
ユカは大丈夫と、そう彼女の目が言っていた気がした。あの訳の分からない大きな炎の結界に入って、そして今にも沢田綱吉と合流しそうになっている場面でユカは確かにそう言った。
ちゃんとその声が僕の耳に聞こえてきたわけではない。だけどユカは確かにそう言ったんだ。
きっとそんな事を言ったのは、今の自分が今までにないと言うほど情けない顔をしていたせいだろう。自分の事なんて省みず、僕の心配をユカはしてくれていたんだ。
ユカが完全に炎の中に入ってから僕は、傷付いた体に鞭を打って何度も炎の結界を壊すがごとく、トンファーを振り回した。
それこそ何度も、何度も、何度も。
ロールを使ってみたり自分にできる最大の攻撃を加えてみても結果は変わらない。自分に跳ねかえるダメージと疲労が増えていくだけ。
ちょっとだけずれた所で草食動物たちも同じような事をやっていたけれど、結果は相変わらずだった。
………多分、これで向こうが破壊出来ていたら本当に自分が情けなくて落ち込んでいたんだろうと思う。
中ではそんな僕たちの様子をいとも介せず。話が次々と進んでいた。
『「ユカチャンが異常じゃないと、この現象が、説明できないんだよ」
「!?」
「ユカチャンは異常だ。そして僕らは何の属性を持つと思う?………そう、知っての通り大空だ。凡てを包容する大空。そして大空は『調和』を持つ」
「………」
「これだけの大空の炎を出せば、それだけ何が起こるか分からない。この世界の異端であるユカチャンに反応したんじゃないかな?」
「はん、のう………?」
「んー、ユカチャンを『調和』させようとしてるとか?ほら、元々この世界にいない存在だし」
「!!そんな」』
「!!」
異端?調和?そんな会話が聞こえてきた時、思わず僕は自分の拳を握りしめた。
誰が異端だ。誰が誰を調和するって?つまり彼が言っているのは………ユカがこの世からいなくなると言うのと、同義じゃないか。
「ふざけるのもいい加減にしなよ。そんな事を僕がさせると思ってるの?」
気付いたらそう口走っていた。………今、この中に入ることですらできていないのに。
そんな思いを簡単に見破る白蘭は、正確にそこを抉ってくる。
「どうやってするつもりだい、雲雀クン?この中にも入れてないのに」
「………っ」
「ま、どうせこの強力な結界に入って来れやしないさ」
拳に入らぬ力が入る。普段音を立てる事のない、そこからギリリと擬音の様な音が強さのあまりになりそうだった。
………焦るな。焦るな。チャンスは必ずある。
そう自分に言い聞かせる事で精一杯だった。
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