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雲珠桜は夏に彩る
埋れていた、事実17







目の前にいる雲雀さん。私よりもちょっとだけ背が高くて、鋭い目つきをしていて。いつも無表情に口を結んでいる。それが時々不機嫌そうにも見えるような。………いや、今もちょっとそう見えているような。





「………つまんねーの。もっとエース君の慌てた顔が見たかったのに。これじゃあ俺がお邪魔虫みたいじゃん」





別はちぇっ、と舌を鳴らすと、一回の脚力で崖の上へと飛んだ。





「ベル?」


「つまんねーから敵の所に行くわ。いい加減に行かねーと、美味しいとこ取られっちまうし」


「え………」





ベルはさっさと私達から背を向けてしまう。何も言わなければ、そのまま本当に消えてしまいそうだった。実際、ベルは今にも去っていきそうだ。そんなベルを見て私は、大きく彼の名を呼んだ。





「ベル!!」


「?」


「その………本当にいろいろとありがとう!!気をつけて!」


「……フッ、バーカ。心こもったやつも言えんじゃん」





彼はそのまま私達に背を向け「チャオ」とだけ残して去っていった。あとはただ、原作どおりにベルが戦闘に参加することを祈るばかり…………。





「………」


「(雲雀さん…)」





………なんだけど。
向かい合った私と雲雀さん。向かい合った途端に静寂を漂わせる周囲の空気。そこに居たのは私と雲雀さん達だけでなく、ツナやリボーン、京子ちゃんもいるはずだが、何故か全員が口を閉ざしていた。


……こうして雲雀さんと向き合うのはいつ振りだろう。こうやって会話をするのは。
ベルとのやり取りは入ったせいで妙な間がある。ただえさえ離れていた時間が長すぎる気がして、向き合うのはなんだか変な感じなのだ。私にはこの間は少し居心地が悪い。だけど私の唇は、雲雀さんの名を呼んでいた。




「雲雀、さん………」




ガシッ。

………あれ?

雲雀さんの手が、私の頬を掴んだ。





「……もう一度、呼んで」


「雲雀さん」


「ユカ………記憶が、」


「あ、戻ったんだ。なんとか」





迷惑掛けて、ごめんね?
小さくそう言うと、雲雀さんの瞳が揺れた気がした。あ、泣きそう。と観察していたら、その立場は皆の方に回ってきてしまった。





「い、いひゃいれす、雲雀ひゃん……」


「夢じゃ、ない?」


「なんで私で確認ひゅるのぉ!」


「ぶっ!!」





餅のように伸びる伸びる私の頬………なんてことはなく、一般の硬さを持つ私の頬は雲雀さんの手によって一定まで引き延ばされたらそこで止まった。きっとその姿はみじめで不格好なのだろう。丁度私の正面、雲雀さんの背後にいるツナとリボーンが一緒のタイミングで噴き出す場面が目に入った。
………あ、目から水が。





「本当に、戻ったんだね」


「うん……記憶のない私ってどんなのだった?変な事してないよね?」


「気持ち悪かった」


「…え?」


「もう、二度と『君付け』で呼ばないで」





あんな思いをするくらいなら、敬語に戻った君の方がずっとましだ。

そう言う雲雀さんの表情は、本当に痛そうだった。そして雲雀さんの表情にしたのは他の誰でもない。私だ。私が知らず知らずのうちに雲雀さんを傷つけていた。何も知らずに雲雀さんの事を君付けで。
何度私は雲雀さんを君付けで呼んだのだろう。何度呼んで傷つけた?きっと呼んだ分だけ、私は彼を傷つけた。
雲雀さんはなかなか表情を表に出さないから、記憶のない私はそんな事にもきっと気付いていなかったんだろう。





「うん………ごめん、本当にごめんね」





私はどうしようもなく、ただその言葉を吐く。言葉と一緒にあふれかえってきた涙は、頑張ってひっこめた。
辛い思いをさせてしまったのは雲雀さんだ。私じゃない。私に無く資格なんて、ない。
そうやって涙を堪えていると、不意に頭に手が乗ってきた。雲雀さんの手だ。わっしゃわっしゃと撫でるその手つきですら懐かしい。
その手はまるで耐えてなくても良いと言っているようで。それでも涙を堪えていた私を見て雲雀さんは、「涙を堪えているユカなんて、変な顔」と涙を促すようなことまでも言ってきた。不覚にもその言葉に、涙が1滴流れ落ちた。





「…雲雀さんが泣いてくれないから私が泣く…んだからね」


「僕が?僕は泣かないさ」





そんな強がりを小さくはいたのを見て私は、その言葉が本当か確認しようと顔を上げようとすると、雲雀さんはまた、私を撫でる手を強めた。






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あきゅろす。
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