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雲珠桜は夏に彩る
埋れていた、事実13






頭がこんがらがり、周りが見えていなかったせいだろう。ユカは足元に刺さっていた『何か』に気がつかず足を取られ、そして地面と顔を合わせる事になった。




「ぎゃ………っと!あ、あぶ!」




受け身だけでも取れて良かった。咄嗟に手が出たユカは、大きな傷を作ることもせず、また受け身のおかげで頭を木にぶつける事もせずに地面を転げた。





『バカね、ああいうのは咄嗟に取れてナンボのもんだから。覚えただけじゃいざという時に身体が動かないわよ』





急に弥風さんの言葉がよみがえる。………ありがとう、弥風さん。





「いやー、見事な受け身じゃないか!ユカチャンかっこいいなぁ。前も出来たの?」


「っ」


「でも逃げれるなんて思ってないよね?」


「………(逃げるにきまってる)」





後ろを振り向かなくても声だけで分かる。だけど漠々と跳ね上がる心臓を必死に抑え、今来た方向を振り返るとやはり見えるあの姿。しかも最悪な事に、先ほど私がつまずいた場所には一本の龍が突き刺さっている。
………本当に、最悪だ。





「うーん………迎えに来たんだけど。でもまだ決断できない?」


「………」


「はは、別に何もしないって。警戒しないでよ」


「………」





私が一向に口を開かずにいると、白蘭は本当に困ったように苦笑を洩らす。私はその笑いすらもただただ無言を貫き通した。
別に白蘭を警戒して喋らないわけではない。警戒しても、喋る時はしゃべるつもりだ。白蘭と喋りたくない訳でもない。いや、深い意味はない。………ただ、今の私は恐怖で口を開けないだけなんだ。

ふざけるな、誰も白蘭の所に行きたくなんてない。皆と一緒にいたい。……決断?そんなの、何を決断すると言うのだ。
私は絶対皆が勝つと言う事、そのためならどんな協力も惜しまないと、決断している。例外があってそんな決断なんてしない。
だけど怖い。早くここから逃げたい。雲雀さんは?あの人は何処にいるの?雲雀さん、雲雀さん………。




「………」




どうしよう。皆、皆に迷惑をかけられない。だけど一人で逃げ切れる気もしない。
走って逃げられる?
皆の元まで帰れる?
だけど白蘭は飛ぶことだってできる。今の私はただ白蘭に捕まらない事が第一なのに。
白蘭の私の眼を射るようなその眼光は、私を更に追いつけている気がした。

………ああ、なんか今、世界中が私の敵の様だ。




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