[通常モード] [URL送信]

雲珠桜は夏に彩る
埋れていた、事実06







………昔々。今現在生きている人間が実際に知る由もないだろうと思われるほどの昔。イタリアのとある地域に、今現在も続いている、先祖代々不思議な能力を受け持つ家系が存在していました。その家系は巫女の力を受け継いでおり、人々を導く予言者でありました。

ルーチェ。

そんな名の彼女もまた、その一族の一人でたりました。彼女も当然不思議な力を持っており、時には未来を見透かす事も出来ましたが、彼女はあえて短命と言う宿命を背負ことになる呪われた赤ん坊『アルコバレーノ』になる道を選びました。
この話はそんなルーチェがまだ、呪いで赤ん坊になる前………そして、ルーチェの娘にまで及ぶ、時空を超えた不思議な物語………。




「その本はどうやら、母と祖母の二代に渡った日記の様でした」




………一番最初のページ。かなり日を浴びて色褪せた表紙を一枚ハラリと捲った所に現れる冒頭。その中身はなんてことのない、私の祖母であるルーチェの日記でした。
ただの日記。ただそれだけだと済ませて私がその先を進むことを止めていたらきっと、この先の事を私はずっと知る事はなかったのでしょう。

ユニは本の事について、つい前日の事の様に話を進めていく。ユカもまた、そのたった一言も漏らさぬようにと、その気持ちに応えるようにしっかりと聞く耳を立てた。





『つい先日の事。私はいつものように、夢を見た。でもその夢はその数日後、本当に…』





その日記は、途中から不思議な事が書いてありました。祖母が予言を行う時、予言に当たるものを夢に見る事は大して変わった事ではありません。それまで読んだ日記にも予言の事は書いてありました。

………でもその予言は明らかに、今までの予言とは違っていたのです。





『そこにいたのは一人の成人女性だった。成人と言ってもまだ顔は幼い。やっと成人を超せたぐらいの年と、その時の私は見た。恐らく顔立ちからして日本人だろう。辺りは………多分、西欧のスラム街。一度、そこには私も尋ねた事があった』


『彼女は、何も分かっていないようだった。なんで自分がそんな所に居るのかも。ただ訳がわからないというように左右を見渡し状況を何とか把握しようとしていた。不思議だ。記憶を失ったりでもしているのだろうか………?しかし様子をそのまま見ていれば、彼女は誰かの………恐らく、家族の名だろう。それを何度も呼び、不安に駆られた表情をしていた。何とか人のいる通りに出てそこが日本じゃないと言う事を知ると、絶望したように地面に座り込んだ』





自分が助けなければ。そのような事がずっと書かれていました。祖母は運命は縁と言う物信じていました。だからこれも何かの縁と、祖母はその後の彼女の前に現れたそうです。





『私の所においで、元の場所に送ってあげる。彼女と同じ目線でそういうと、彼女は私のことを怪しみながらも手を取ってくれた。半信半疑だったんだろうけど、ずっと襲われていた不安には勝てなかったんだろうと思う。差し出してくれた手は少し震えていた。
最初は彼女を日本でもどこでも元いるべき場所に返せばそれで終わりと思っていたが、そうはいかなかった。………彼女の口にしたその住所は、どこにも存在しない物だった』


『場所は日本だと言う………だけどどんなに調べても、彼女のいう住所はなかったし、それらしき場所にいっても全く違う風景がそこにはあった』





結局その人は祖母が匿い、そのまま寿命まで生きたそうです。人並みにも結婚したし、子供も出来た。でも自分の家に帰るというその人の願いはかなわなかった…。

母も、同じような体験をしています。母の場合、日本で同じように似た待遇の女の子を見つけたようです。その人はユカさんぐらいと同じ年で、やはり帰る事は叶いませんでした。




[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!