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雲珠桜は夏に彩る
本当の自分10








………ユカの言葉に混乱する一向。とにかく今の状況を簡潔にでもまとめるため、一度落ち着くように正一が皆を促した。

野猿は京子達がもう一度開いた傷を治療し、今度は簡単に傷口が開かない様に何重にも厳重に包帯を巻き直す。ユニにも水分を与えて、無駄な力を抜けるようにと座らせ木にもたれ掛けさせた。この時ばかりはラルも話を聞きたいと、ユニと同じように上半身だけ起こし、聞く態勢に入る。後の皆は火を囲むようにして地面に腰を下ろした。
司会進行は何故かリボーンに。





「取り敢えずだ。お前は俺達の事も全部、思い出したってことで良いんだな、ユカ」


「うん」


「親の事も覚えているな?」


「勿論…………って、私そんな事も忘れてたの?」


「ああ」





記憶を無くしていた事を覚えていないらしいユカには、きちんとこれまでの出来事を最初から筋立てて話してある。どうやらγ達と離れ、再び白蘭に捕まった時から記憶は途切れているらしい。ユカからすれば、白蘭に捕まる時に意識を失って、次に目を覚ました時にはもうこの場にいたと言うのだから不思議な話だ。

ユカに問いたい事。
γ達も交えて色々と話を検証したいのは山々だが、まずはこれからだろう。





「ユニ。お前ユカに一体何したんだ?………お前がユカの記憶を取り戻してくれたってことで良いんだな?」


「正確には、ユカさんの記憶を戻すための手伝いをさせていただいたんです」





こくりと盾に首を振るユニ。その顔は少し休んだからか、先ほどよりも生気が戻っている。そんなユニの小さな口からユカの記憶について、少しずつ説明がなされていった。





「元を辿っていけば原因は、ユカさんが血を見たショックに遡ります」


「私が、血を?」


「ええ。そして、γの持ってきたユカさんのゴムもです」


「?」





一体その二つに何の関係があるのだろう。ユカははて、と首を横にかしげた。周りを見れば皆も同じように首をかしげている。





「元々、ユカさんの中には記憶を戻そうとする傾向があったんだと思います。だけど、それを白蘭がどうにかして押さえていた…………それは時間が経つにつれ、その力も弱まってきたんだと思うんです」


「白蘭の力が…………?」


「弱まってきたって、どういう事だ」


「彼は自分の能力が弱まっていくのを感じています。…………それは、私も言える事ですが」


「!…………白蘭サンの能力って、パラレルワールドに居る自分の知識を共有できるって言う、あの?」


「ええ」


「お前もって、どういう事だ」


「…………力の枯渇と、衰えだと思っています」


「「!?」」


「だから、私はユカさんに出逢った時、その時点では記憶を戻して差し上げる事が出来なかった」





紡ぎだされる言葉の断片達。それは次々に皆に衝撃を与えていった。ユカの記憶の事について話していたはずなのに、段々本筋から逸れる所か、もっと重要な問題へと差し迫っていっている気がする。ユニに関する事はなおさらだ。





「人は生まれた時から死に向かって生きていく…………遅かれ早かれ自然な事です」


「…………確かに、代々大空のアルコバレーのは短命だしな」


「え!」


「そんな」


「でも、だからこそ白蘭はとても焦っているんです。それにだからこそ、ユカさんの記憶は戻ってきた」


「!」


「きっと、ユカさんの記憶が戻ってきたのは白蘭が思っていると思うよりも早かった事だと思います」





その原因はユカさんのゴムなんです。
ユニはもう必要のなくなった、私の腕につけているゴムを自分に差し出すように言った。私も何の異存もなく、それをユニに差し出した。

差し出して改めて見てみるが、その差し出したゴムは本当にごくごく普通の髪を纏めるためのゴム。昔…………と言ったら、なんだか変な感じだが、私がこの世界に来る前から使っていた、そこらの店で売っているようなゴムだ。誰かからも貰った特別な物と言うわけでもないし、特別な思い入れもない。無くしたり切れたりしたら「あーあ」で済まして新しいのに買い替える。そんな程度のゴムだ。
それが一体何の役に立ったのだろう?




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