雲珠桜は夏に彩る
自分と言う名の探し物11
「行けぇ」
「あ…………」
スクアーロと視線がぶつかる。この目は本当に余裕のない目だ。早く行かなければ。そう思って踵を返そうとすると、再びユカの耳にスクアーロの声が届いた。
「ユカ!!」
「は、はぃ!?」
いつも以上にでかい声。思わず私はその声に近めの大きな返事を返す。後から羞恥心が一気に沸き上がり、顔を真っ赤に染めた。
スクアーロはそんな私の顔に満足したのか何なのか。戦闘中だというのにニヤリと口角を上げた。
「次会う時までには俺のこと、思いだしておけぇ!」
「え?」
「…………いや、最低でもベルのことだな。奴は忘れられてると知ったら、何するか分からねぇ」
「ベ、ベル?」
それは鳴らすあのベルか?
「ベルフェゴール。だからベルだぁ。金髪で前髪で顔が隠れててティアラしてる野郎がいたら十中八九…………いや、100%ベルだぁ。名前ぐらい呼んでやれぇ。あいつ、お前に会いたがっていたからな。…………分かったかぁ!!」
「は、はい!」
「なら行けぇ!!」
スクアーロは行くように促した。私もスクアーロに言われたことに混乱しながらも、足を進めた。
「ユカ!もう『逆さみのむし』になるんじゃねぇぞぉ!」
それは、ユカの背に向けられて言われた言葉だった。ユカも逃げているときだったし、きっと返事には期待していなかったのだろう。だがそれを聞いたユカからは、思いがけない言葉が返ってきた。
「もうそんなことにはなりません!」
「!!」
その言葉に思わずスクアーロはユカを見た。だがユカは、既にこちらを見ておらず、必死に逃げている後ろ姿しか見えない。
それでもスクアーロは、希望を持たずにはいられなかった。
「…………覚えているのかぁ?」
その答えは恐らく、彼女自身も知らない。
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