雲珠桜は夏に彩る 束の間のハプニング06 そうやってちょっとだけ、ユカは空を見つめていた。 そうすることでさっきの出来事がなかったことになればいいのに。そうすれば誰も怖い目に遭うことなく解決するのに。 でもそんなものは、ユカのただの理想論でしかないということは、誰よりも本人がよく分かっていた。 「…………」 「雲雀くん?」 「…………並中の方に、ひとつ落ちた」 隣を見れば雲雀くん、どこか一点の場所をずっと凝視している。 「並中…………」 並中とは雲雀くんが通っている中学校の事だろうか?それにしても雲雀くんは、やけに真剣そうに並中の方を見る。度合いとしてはかなりのものだ。 そりゃ…………人がまだ校内にいるかもとか考えると気にはなるだろうが、ここまで気にするほどだろうか?こっちにいつ敵が来てもおかしくはないと言うのに。いつ自分達の身に危険が及ぶか分からないというのに。 …………と言うか、雲雀くんはそんなこと考えるような人だったか。 「ああ、雲雀さんは…………」 私はきっと、眉間にシワを寄せてでもいたのだろう。ツナが小さく、隣の雲雀くんに声が届かないように 「雲雀さんは学校命なんだ。そりゃもう…………異常な感じの」 とユカの耳に囁いた。勿論そんな声に雲雀くんが気づかないわけもなく(一体どんな聴覚をしてんだ)、あっさりと見つかり、思いっきり(ツナだけ)睨み付けられた。最初は学校命の意味がいまいち分からなかった私も、雲雀くんの携帯電話の着信は校歌と言う話を聞いて、素直に驚くと同時に理解が及んだ 。 そんなに学校命の人がいるなんて誰が想像できるだろう。学校なんてものは確か、嫌々行くものではなかったのか。でも、そこまで学校が好きなのなら、きっと落ちた転送システムの事とか心配なんだろうな、とちょっぴり思った。ちょっぴりと言うのは、思ったことがあってるか分からないから。 「…………ハア。行きたいのね、恭」 「…………」 「でも、ユカがいるからここを離れられないってこと?」 「私?」 「自分が…………恭がいない間にユカが拐われたこと、結構あるから」 「え、複数形ですか!?」 「…………」 うんともすんとも言わない雲雀くん。でも表情を見れば、それが事実だと言うことは一目でわかった。眉間にシワを寄せていたのだ。それはまるで…………何かを後悔しているようにも見えて。 「!!」 気付いたときには、雲雀くんの手と私の手が重なっていた。雲雀くんの体温が直に伝わる。…………その手はちょっとした決意の現れのように感じた。 『君は、僕が守る。勝手に傍を離れるなんて許さないよ』 最初の方で言われたこの言葉。耳から離れないこの言葉。最初に言われたときは赤面しかできなかったが、今改めて聞くと、その言葉の意味の重さが違った。きっと、何度も私が拐われているせいだろう。きっと、その回数が増える度にその重さが増えていった。 …………きっと、心配もいっぱいかけたりしてしまっていたのだろう。 「………えと、行ってきて良いよ」 「…………ユカ」 気づいたら、私はそう口走っていた。それを聞いた雲雀くんは、軽く目を見開いて私の方を見ている。 雲雀くんが並中って所が大事なら、今そこにいくべきだと思う。…………と言うか、私が居ることで並中に行けないと言うのは見過ごせない。私は雲雀くんの重荷になる気は毛頭無いのだから。 「ほら!私なら大丈夫だよ。自分の身は自分で守るし、安全なところに隠れてればいいんだし!…………って言うか、私よりユニちゃんが狙われてるんだし!」 「…………ユカちゃん、それ、全然説得力ないんだけど」 「え?…………あ、あれ?」 雲雀くんを安心させるために、私はできるだけ雲雀くんの中の不安要素を消せるように言葉を並べ立てた。だが気づけば皆は、私の方を見て苦笑を漏らしている。 私は何か変なことを言っただろうか? [*前へ][次へ#] |