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雲珠桜は夏に彩る
束の間のハプニング04







「…………ユカ?どうかした?具合悪い?」





戸惑っていつまでも黙り混んでいる私に痺れを切らしたのだろう。弥風は心配そうに私の顔を覗き込んで、私の顔色を窺い始めた。




「えっと…………あの」




正直にユカは「あなた誰ですか?」と口走りそうになったが、すんでのところで思い止まる。ここでそんなことをいったら、こんなにも心配してくれているこの人を傷つけてしまう。何となくそう感じた。でも、だからといって知ったかぶりをするわけにもいかなくて…………。





「…………髪は気づいたらこうなっていたって言うか…………そもそも私って髪、長かったんですか?」


「え?何言ってるの、ユカ?前はあんなに伸ばしてたじゃない…………」


「弥風さん…………今、ユカちゃんは記憶喪失、なんだ」


「…………なん、て?」


「白蘭に…………」





言いづらそうに私が機会を伺っていると、ツナはそれを察したように、私の代わりに弥風に代弁してくれた。白蘭の事を言うと、ツナは辛そうな表情を浮かべていたが…………それよりももっと酷かったのは、弥風の表情だった。
固まった、と思ったら一気に私の肩を掴む。





「…………どういう事?じゃあ私の事も忘れちゃった?もしかして髪も奴にやられた?」


「す、すいません。分かんないです」


「なんにも覚えてないの?ほら。あのあそこにいるクソガキが自分の彼氏ってことも?」


「…………」


「あ、それは教えてもらってます。私に彼氏ができてる事がビックリなんですけど……」


「そんな」





弥風の質問攻めが途絶え、ユカの肩が弥風の手から解放される。そしてゆっくりと弥風の中に、包み込まれた。
ユカには、弥風の表情がちゃんと見えていた。彼女は必死に唇を噛んでいた。目を潤わせていた。…………眉も情けなく目尻の方が垂れ下がっていた。だけどそれを思いきって表に出すような真似を、弥風はしなかった。きっと、いろんな人の気持ちを踏んで堪えている…………もしくはプライドがこの場で泣くことを許さないのか。

この人は強い人なんだな…………と客観的に思っていたら。





「うげっ!?」


「何て言ったっけ…………そう、白蘭だかなんだか知らないけど、私のユカを傷物にするんて…………っ」


「弥風。ユカ絞まってる」


「そいつ、私が直々にぶっ…………倒してやる…………!!!!!」


「(絶対この人もっと野蛮なこと考えてたよー!?)」





優しく包み込まれた、と思ったのもつかの間。次の瞬間には、思いっきり私を抱き締めていた腕に力を入れられた。
ユカにその状況で抵抗なんて出来るわけもなく、ただただもがいて必死に助けを求めるだけ。しかも弥風は、女性とは思えないほどの力を(無駄に)発揮する。
こんな細い体と細い腕で、一体何処から力を振り絞っているのだろうか?怒りを露にしてくれるのはありがたいが、力加減と状況ぐらいちゃんと把握はしてくれないだろうか?このままでは窒息死してしまう。





「弥風さん、あまり物騒なことは考えないでください…………」


「いいや、もう無理。何がなんでも私がそいつを倒して…………!!!!!」


「だから、もうその敵は沢田達が倒したから、こうして無事に戻ってきて…………」





リーゼント…………草壁は半分暴走し出している弥風に、急ブレーキを踏まえるよう必死に止める。表情に浮かんでいるのは、冗談でもやめてくれと言った感じだ。






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あきゅろす。
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