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雲珠桜は夏に彩る
来たる、約束の日08







私は?
…………笠原ユカ。

私の家は?
…………分からない。覚えてない。

ここはどこ?
…………知らない。

ここに知っている人は?
…………いない。




私は笠原ユカ。それはわかる。でも、それ以外は分からない。

…………何で分からないの?

自分のことが分からない。家族のことも友達のことも思い出せない。だから、自分の中に疑問だけが残るのは気持ちが悪いから、少しでも疑問を解決しようと私は口を開いた。





「誰…………ですか?」





その言葉が本人を傷付けるとは知らずに。





「え…………?」


「ユカ、ちゃん…………?」


「何で名前知ってるの?ここは?私は…………」





分からない。分からない。分からない。
私は何者。ここはどこ。私に関する情報が全く頭に浮かばない。両親の顔も、自分の生家も。ただ分かるのはそんな状況は可笑しいと言うことだけ。
そんな言葉を私が吐くと、次々に皆は顔を歪めていった。結果、この結論に辿り着く。





「ユカ…………お前もしかして、記憶が無いのか…………?」





獄寺のそんな的を射た結論は、この状況にとどめを差しただけだった。





「ユカ…………」


「あはは、成功した?良かった♪」


「!?白蘭…………」


「君達と会ってからのユカチャンの記憶は全部消したはずなのにあるなんて不思議だけどさ。面倒だからぜーんぶ、消しちゃった♪」


「!?お前…………!!」


「さあ、ユカチャン。自分のことが知りたい?自分の家に帰りたいって思う?…………そうならこっちへおいで、僕が帰してあげる」


「え…………私の事、分かるんですか?」


「ウン、ぜーんぶ知ってるよ。だからそんなところに居ないでこっちへおいで」





白蘭はそうにっこりと微笑み、自分のところへ受け入れるかのように両手を広げた。何かに引き寄せられるように…………いや、きっとその言葉に引き寄せられたのだろう。私は男の方へとゆっくり一歩、また一歩と歩み出した。
自分の事を知りたい。手懸かりだけでも。
その一心だった。





「ユカ」


「…………え?」


「行くな」


「でも…………」





離れかけた手を、雲雀は再び掴む。今度は離れぬように、離さないようにガッチリと。その力の強さは意思の強さを表しているように感じた。
何でこの人はこんなにも必死に私のこと止めるのだろう?
分からない。でも、この手は何故か知っている気がした。





「あの…………」


「君は、僕が守る。勝手に傍を離れるなんて許さないよ」


「でも……あの人は私の事、知ってるって」
「僕だって知ってる。勝手に傍を離れたりしたら、咬み殺す」


「!」





なんなんだ、この傍若無人な男は。
自分の言う通りにいかなければ斬る、みたいな雰囲気を漂わせている。いや、実際そうなのだろう。
咬み、殺す?何かのギャグだろうか。この人は一体…………。

ああ、もう考える事も面倒臭くなってきた。

取り敢えず殺されるのは勘弁してほしいので、私はこの場に止まることに決めた。





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