雲珠桜は夏に彩る
来たる、約束の日05
分かんないことだらけだった。この状況もこの人たちのことも全て全部。私の頭が悪いだけなのだろか?
…………すると、また知らない声が私の名を呼んだ。
「え…………」
「ユカちゃん!?」
「おい、ユカ!?」
今度はもっと若い声。多分少年と言った方が近い。そしてこの声も聞き覚えがあるが…………。
「…………?誰」
気づけばそう口走っていた。聞き覚えはある。だけど誰かは思い出せない。元々男友達なんてそういないから、すぐに分かりそうなのにどうしても。モヤモヤする。
そうすると、息を飲む音が至るところから聞こえた気がした。
「え…………?な、何言ってるのユカちゃん。俺達だよ、俺、沢田綱吉」
「さわだ、つなよし?」
遂に、主人公の名前まで出てきちゃったよ。
「ハハハ、無駄だよ綱吉クン!ユカチャンはなーんにも覚えてないよ?」
「!?」
「ちょっと記憶を弄っちゃった。綱吉クン達に会った…………そう、ユカチャンがこちらの世界に来てからの記憶はぜーんぶ消しちゃったからね」
急に誰かから耳を塞がれた。その事にビックリして肩を震わすが、直ぐに私の耳に置いた手は退けられた。どうやら聞かれたくない話があったらしい。分かったのは少年とこの誘拐犯が喋っていた、と言うことくらいか。
ああ、早くこの目隠しが取れないものか。何も見れないことがもどかしい。目を開けばそこには、今の状況を一瞬で把握できる気がするのに。
「じゃ、じゃあ雲雀さんの事は!?ユカちゃん、雲雀さんは覚えているでしょ!?」
「余計なこと言わないで。沢田綱吉」
「で、でも…………」
「…………自分で、確かめる」
「?雲雀、さん…………」
カツカツ、と靴の音がする。それと同時に何故か目隠しも取られた。眩しい。いきなり太陽の日が私の目を襲ってきて、目の前の景色が逆光で映る。
「感動的な再会だからね。目隠しなんて余計でしょ?」
あの若い人の声だ。私はその人がどんな人か知りたくて、後ろを向いた。
「っぎゃ!!?」
「…………」
振り向くとなんか後ろに、仮面被ったおっさんみたいなのがいた。多分この人が目隠しを取ってくれたのだろう。赤い仮面と黒いマントの組み合わせが不気味さを際立てている。
いきなりで、しかも目の前だったので私は後ろに退いた。すると、また背中に衝撃が走った。
「!?ご、ごめんなさ…………」
「…………ユカ、僕だよ。本当に覚えてないのかい?」
「…………え?」
段々目が光に慣れてくる。さっきまでは真っ黒いものだけが見えていたが、今は輪郭もはっきりしてきた。そうして見えるのは…………見慣れたようで見慣れていない、あのつり目と学ランと風紀の文字が入った紋章。目の前にいるものが本物だって気づいたとき、ユカの顔が少し赤く染まった。
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