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雲珠桜は夏に彩る
一宿一飯の恩義11







「Rilassa con cambio di un favore qui, o un ragazzo e!(ああ?俺達じゃ相手にならねえってか)」


「そうだね。無駄な時間は使いたくない」


「Lei…………!(てめえ…………っ!)」





やめて。思わずユカはそう叫んだ。だが言葉は音にならず、全部喉の辺りで消えてしまう。

この人にはここの人達だけじゃとてもじゃないが敵わない。例えγだとしても。それほどまでにこの悪魔の力が強大だと言うことは、嫌でも紙面の中で散々思い知らされている。紙面の中だけならばよかった。他人事で済むし、ページを捲るだけで解決するから。
でも、私はここの人たちと接してしまった。ただえさえ悪い人たちではないと知っているのに、接してその温もりを感じてしまえば、もう後戻りはできない。

巻き添えは…………ごめんだ。





「γさん」


「なんだ」





私は小声でγに話しかける。勿論γはその事をよしとはしなかった。雰囲気で空気を読めと言われている気がする。でも、ユカはそれに構わず言葉を繋げた。





「γさん最初言いましたよね。足手まといになるなって」


「ああ?言ったかもしれねえな」


「なら、今からは私のことじゃなくて皆の事を優先してください」


「!?お前…………!」





私はそれだけ言い残すと、γより一歩前に進み出た。あれだけ言われたγの一歩前に。後ろからやれ戻れ、やれ何する気だ、そんな声が聞こえるが、敢えて聞こえない振りをする。γの手が自分の肩に置かれても、それは続けた。

…………ああ、情けない。

こんなときは、こんな行動をとったからには、白蘭を思いっきり睨むなり怒鳴り付けるなり上手いことやってのけれればいいのに。現実はそうはいかない。今からやることと先の事を想像するだけで、足は震える。言葉が掠れる。逃げ出したくなる。睨み付けるなんてもってのほか。情けない。
………それでも。




「…………」




もし。もしこんな世にまだ神様と言うものが居るのなら。まだ居てくれるなら。
私がここに連れ去られたことはもういい、水に流す。これまでの最悪なことも全部無かったことにする。その時に助けてくれなかったことをもう恨んだりけしてしない。だから。





「白蘭…………取引、しよう」





だから。





「!?何言ってんだユカ!」


「嬢ちゃん!?」


「へえ…………ユカチャンが取引?面白そうじゃん」





今からやることは、絶対に成功させて。





「私が目的なんでしょ?なら…………私と取り替えに、ここにいる全員を逃がして」





どうか、私を助けてくれようとした人たちを。





「抵抗はしないから…………」





本当は嫌だけど。





「小娘…………余計なことするんじゃ「余計じゃない!」…………!」





私のせいで皆が傷付くくらいなら。





「だから。確実に皆を」





私が傷ついてでも守れるなら。





「皆を逃がして」





ずっと守られる存在だった私だって、人を守れるんだって、思わせて。






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