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雲珠桜は夏に彩る
一宿一飯の恩義06







その日、γに面と向かって言われた。





「おい、小娘」


「だから私にはユカってちゃんとした名前が…………」


「日を一日、早めることにした」


「…………え?」


「出発は明日だ」





突然のことに、思わず私は持っていた包帯を落とした。私の正面には怪我を負った隊員が上半身だけ起こした状態で、私と同じようにγを見つめている。包帯替えも私の仕事の中に入っていたから、ここに来てからずっとこの作業を繰り返しやっていた。だから、この隊員ともちょっと仲良しだ。





「………… O infine, grande fratello(…………いよいよか、兄貴)」


「Ah. Mi dispiace(ああ。すまねえな)」





二人は真剣な顔をして言葉を交わす。隊員の顔を見る限り、あまり表情に変化が見られない。私のように驚きとか戸惑いじゃなくて、来る時が来たと覚悟が決まっている顔。それがどういう事かとγの方を見た。
やはり思った通り、γは真剣な顔でこちらを見ていた。




「出発は明日にする」




やっぱり。




「…………で、でもまだ動けない人とか」


「そういう奴らは置いていく。本人達にも既に承諾済みだ」


「γさんだって、」


「ああ?俺はもう治ってる」


「よく言いますよ、あんなでかい傷背負っと
いて!」


「治ったっつーたら治ったんだ」


「そりゃ、怪我してるメンバーで言ったら一番軽いかもしれないけど…………」





それでも傷は深い。ユカは苦虫を噛んだかのように顔をしかめさせた。
γは獄寺と戦った傷の事もあるが、何より(十年後)雲雀さんとの傷の事もある。チョイス編ではそんなことを微塵も感じさせない動きをしていたが、そんな簡単に致命傷にもなった怪我を直せるはずもない。それは何より本人がよく分かっているはずだ。
しかし、そう喚くユカを余所にγは話を続けた。





「それでだ。お前、確かあのカエル頭になんか言われていたよな。…………大人しく助け
られるのを待っておけ、だったか?」


「?」


「どうする。ここにいればいずれ助けがくるかもしんねえぞ。それをわざわざ危険な外に出ていくか?」


「それは…………」


「お前はまだ、自分の身を危険に晒してまで直ぐに帰りたいか?その覚悟はまだ、お前にあるのか」


「…………覚悟」





その二文字を小さく唇に乗っける。
私の中にある覚悟。ああ、何てその言葉は重いんだろう。
ユカはその意味を、しっかりと味わうように噛み締めた。

γは多分、私を試しているんだ。ここで危険を選んで自由を選ぶか、安全を選んで牢獄を選ぶか。後者を選ぶのであればその覚悟の程を。そこまで確認しなければならないほど、ここを出るのは危険とでも言うのか。






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あきゅろす。
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