雲珠桜は夏に彩る 一宿一飯の恩義03 「………幻騎士。奴の事まで知ってるのか」 γの硬直が解けた後、γは恐る恐るその名を口に出した。怖がっているのではない、むしろ逆だ。彼は次々と沸き出てくる怒りや憎しみ、悲しみを口に出さぬよう気持ちに蓋をしている。ユカはγがその事を言葉にしなくても、感じ取る事ができた。 「一応は。一通りの経緯は理解しているつもりです…………」 つーか一応私、一度幻騎士に襲われてますから。 「姫の事もか」 「…………はい」 「教えろ」 「?」 「教えろ、お前の知ってること全部。話せ。漫画の事も何でもいい。…………とにかく知ってることは全部漏らさず言うんだ」 「!」 γは私の肩を押さえた。 手加減はしているみたいだが、やはり大人の男の力というのは私には強すぎる。骨がすぐに悲鳴を上げた。 γが鬼気迫る様に掴むから、自然と顔と顔の距離も近くなる。でも私はそれを拒むことも払い除けることもしなかった。………しようともしなかった。 「教えてくれ…………」 「…………」 γが本当に心からユニの事を想ってるのは、掴んでいる手と私を真っ直ぐ見つめてくる視線から分かる。分かっている。…………原作から経緯を知っている分余計に。 「γ兄貴…………」 横で騒いでいた隊員達やマルコ、太猿や野猿達も口々にその名を口にのせる。 想いは皆、同じ。 「…………あ」 対する私は戸惑った。 漫画の事を話すのはいい。でもどこまで?この…………γとユニの最後は私達から見てもけして良いものとは言えない。でも、だから最後を知っていると言っても今更どうにもできない。ユニ達があんな最後にならないように手を尽くす?どうやって?言い方が悪くなってしまうが…………この時代のアルコバレーノはもう死んでしまった。私達も来てしまった。 ユニは私達を未来に無事に返すため、アルコバレーノを助けるため、そしてあの子は過去と未来の世界を守るために自らあの道を進んで決意した。 …………今更何をしたところでどうにかなるとも思えない。 「…………はい」 なのに私は、自然とそう言っていた。 頭の中ではどう話すのがベストか、少ない脳みそを使って必死に考えた。 すると。 「…………Grazie 」 小さく、でも私にははっきり聞こえる声でそう言われた。そんな言葉を返してもらえる何て思っていなかった私は、思わずγの方を見た。残念ながら顔は逸らされた。 …………その言葉を聞いて、私は何故か泣きたくなった。 [*前へ][次へ#] |