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雲珠桜は夏に彩る
黒と緑に注意報11








「武勇伝………にしては、勇ましすぎだな」


「自分で聞いててお腹一杯になりました」


「だろうな」





私とγさんはそう言って、互いに顔を見合わせた。
…………数もそうだし、内容も聞いていてぎょ、とするものばかり。つくづく今自分が生きていることが不思議に感じた。
塵も積もれば山となる。と言うか、例え内容が大したことがなくても、これだけ口頭で並べ立てられると圧倒されるものがある。しかもユカの場合、その一つ一つが大したことだ。ほんと、何で自分は今まで無事なんだか。





「ま、ベル先輩のナイフ全部避けたのはナイスです。…………って言うか一般人に避けられるってことはやっぱり堕王子ですねー。何かタネがあったんですか?」


「(堕王子………)え?特になにも…………」


「まさかそんな。何か仕掛けがあったんですよねー。それかベル先輩が酔ってたとかー」


「素面だった気がするけど…………」





私が無我夢中だったから。
そう言えば、皆が更に驚愕の色に変わった。





「嘘だろ?」


「いや、自分でも信じられないけど本当」


「…………一応堕王子でも、うちの幹部なんですけどー」


「うん、めっちゃ怖かった」


「ベルフェゴールが手加減でもしたか?」


「「いや。それは絶対に無い」」





私とフランの声が重なる。γ達は本人を知らないからそんなことを言えるが、奴を知っている側の私達は違う。あいつは女だろうが子供だろうが、どんな奴でもいたぶって殺すのが大好きな奴だ。女だからとか言って手加減だなんてとんでもない。
ユカの脳裏には、ベルのお決まりの笑い声が頭のなかに響いた。





「人は見た目によらねえもんだな。お前がヴァリアーの幹部と殺り合えるなんて」


「ち、違います!私はただ逃げてただけで…………」


「心当たりとか無いんですかー?流石にそれだと、堕王子のせいでヴァリアーの評判ガタ落ちですよー」


「こ、心当たり?」


「えーっとですね。例えばビックリ人間的な能力の持ち主ですとかー」





空を飛べるとかー。
相手の技をコピーできるとかー。
堕王子限定で物凄い力を発揮できるとかー。

フランは思い付く辺りを片っ端から例を挙げていく。その例はどれも持っていたらビックリ人間になれるだろうと言うものばかりなんだけれども、所々に『堕王子』という三文字と嫌みが混ざっているのは流石だ。
ユカはそう思いながらも、頭の片隅で『能力』という言葉が引っ掛かっていた。





「そう言えば前に…………そんなことを言われたような」


「本当か」


「何だっけ。確か『超』がついたやつ……」





頭に手を当てて、脳の中を雑巾のように絞り出す。……余計なものまで出ていきそうだ。





「ユカ!お前、ビックリ人間だったのか!?空飛べんのか!?」


「違うわい!って言うか、野猿は空飛べるでしょ!!」


「そ、そりゃそうだけど…………」


「えっと何だっけ…………超…………ちょう」


「…………『超反応』か?もしかして」


「そう!それです!それと『超眼力』!……………え?」


「やっぱりそれか」





それだ、という風にユカは、今どうしても思い出せなかった単語を言ってくれたマルコを指差す。
マルコを指差して…………違和感を感じた。






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