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雲珠桜は夏に彩る
黒と緑に注意報05








『お前は雲雀の女か』


「…………へ?」





開眼一番、ユカがその日に初めて聞いた言葉がそれだった。

γ達の砦に転がり込んできて一日。昨日いつのまにか寝てしまったらしいと言うことは、自分にかけられたタオルケットで分かった。私は床に寝ていて、枕元には枕の代わりとなる本がいくつか積み重なっている。突然転がり込んできたのになんだかいろんなものを寝てる間に用意させてしまって、嬉しいやら申し訳無いやら。

話を戻そう。

そう、確かに私は目を覚ました。そしてタオルケットも掛けられていた。目の前にはγさんも居て、豪快にコーヒを啜っていた。流石に寝起きは酒ではないらしい。
そして、γさんは私が起きたのを認めるなり聞いてきたのだ。その…………冒頭の事を。




「へ、何…………?」




咄嗟の事で、と言うか反射で聞き返す。が、聞き返す間に内容が理解できてしまった。聞き返してしまったせいで、もう一度素面であの言葉を聞くはめに。





「だから、お前は雲雀の女なんだろ?」


「うえぇ?!何で…………」


「やはりそうか」





まだうんともすんとも答えていないと言うのに、γは私の反応だけで思考を読み取ると言う高度な技術をお持ちらしい。私を雲雀恭弥の女として確定した。

……あれだよね。女=彼女って意味だよね。何でそんなこと。





「それが事実と分かればそれでいい」


「え…………ってかその事なんで!」


「日本人」


「?」


「黒髪黒目で背は高め。十年前引っ越してきて間もなかった奴が行方不明。…………お前のことだろ?」


「何ですか、それ…………」


「雲雀恭弥の女の噂だ。俺たちも知ってる位だ、大抵のマフィアは知ってるんじゃねえか?」


「う"そ…………」





それは十年後の今でさえも?

寝起きに真っ赤に頬を染めたユカ。淡々と話すγの様子からして、その事をからかうようなことは無さそうだが、それでも他人に知られていると言うことがどうしようもなく恥ずかしい。そんな色事に免疫がないなら尚更だ。





「う…………わ、もうここから外に出れないかも…………」


「そうするのはお前の勝手だが、ここに住み着くのはやめてくれ。それに今挙げた様な容姿ならジャッポーネにはいくらでもいる。…………それと」





ピラッ。
目の前のγから差し出された紙が、私の視界を遮った。





「これがここにいる間、お前がやるべきことだ。しっかり頭に叩き込んで、飯食ったらさっさと始めろ。テーブルの上にある」


「は、はーい」


「ま、せいぜい追い出されないよう働くことだな」




γは私の反応を見る前に立ち上がった。




「言っておくが俺は不味い飯なんざ食いたくねえからな」


「む…………っ!」





去り際、γは私の方を一度振り向いてみたかと思うと、明らかに私に向かって鼻で笑った。昨日は色々と混乱していて気付かなかったが…………。




「(意外とγって嫌みな奴)」




今のことといい昨日の会話といい。私に対する言葉にはいちいちと棘がご丁寧に埋められている気がする。いきなり押し掛けた身分で優しくしろと言うのも図々しいのだろうが…………。





「(棘は要らないよ、棘は)」





去っていくγの後ろ姿を軽く睨むように見つめた後、ユカは心で絶対に凄いと舌を巻くほどの働きぶりを見せて、内心でギャフンと言わせてやろう。自分の手に収まる紙を見て、そう誓った。







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