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雲珠桜は夏に彩る
黒と緑に注意報02








「おい、ユカ?」


「…………」





意味の分からないことを言って、顔を膝の間に埋めてしまったユカ。横にいた野猿は訳もわからずユカ問い掛けてみるが、一向に反応が無い。不思議に思って突っついてみると、顔と足の間から静かで規則正しい寝息が野猿のところまで聞こえてきた。





「寝たのかよ。…………オイラと喋ってる途中だっての」


「なんだ?お前のお姫様はご就寝か?」


「γ兄貴!」


「ほれ、それ被せとけ」





背後から声をかけてきたのは、包帯に巻かれた体を引きずって、手には粗末なタオルケットを持ったγ。そのタオルケットをγは野猿に投げつけた。





「どこでも寝れるタイプか、こいつ。寝る時ベットとか要求されなくて助かったぜ」


「じゃなくて!オイラの姫ってなんだよ、兄貴!」


「ん?違うのか?」


「ちげえよ」





放り投げられて宙を舞ったタオルケット。野猿はそれを片手で受けとると、不器用にユカな体を包み込むように掛けた。落ちないようにかけると言うことは意外と見た目に反して難しい。
するりと落ちていくタオルケットに、腹がたった。





「でも予想以上にお前になついてんじゃねえか。お前にベッタリだ」


「そりゃ、こんなかで一番年が近くて日本語しゃべれるから…………」


「そうか?」





γがククッと堪えるような笑いをした。その途端に、自分の左肩に何やら重みがかかってくる。
…………こんにゃろ。





「良かったじゃねえか、役得」


「良かねぇぜ!兄貴」





頭だけぐるりと左に回せば、そこには肩に寄り掛かるユカの頭。その寝顔は無防備過ぎて、突き返すことも出来なかった。





「ぬ〜、頭どけろぉ!」





そう言いながら、野猿はユカとの距離を取ろうとするが、それでもユカは起きない。野猿も嫌々言いつつ邪険に扱えないようで、半分泣きべそになっていた。そんな二人をなにも言わずただ見ているγは、こんな微笑ましいやり取りなんていつぶりだろうかと頭を巡らす。
………そんなとき、ブランケットからはみ出たユカの手首に目が行った。
気付いていたが、あえて触れていなかったユカの包帯。今は軽くほどけて、ユカの白い肌の隙間から赤い色が覗いていた。





「…………」





ユカは何も言わなかったが、この包帯は何か重大な意味がある。γはそう感じ取っていた。
今なら、勝手に見ても許される気がした。





「?γ兄貴…………」


「黙ってろ、野猿」





野猿の肩に寄りかかっているユカ。γはそっとタオルケットから伸びている細い手首を手にとって、ゆっくりユカを起こさぬようにほどきはじめた。横で何か言いたそうにしている野猿はこの際無視だ。








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