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雲珠桜は夏に彩る
逃れる先は、黒10







ひっそりと隠れるように佇む、今は寂れた古いドア。そこを開けば薄暗い空間がユカを待ち構えていた。その感じに尻込んでいると、野猿はそれを構わない、と言うようにずかずかと足を進めていく。




「今帰ったぜ、兄貴達」


「…………野猿か?視察にしてはずいぶん遅かったじゃねえか。何油売ってやがった」


「それが………変な拾いもんしちまってよ」


「あ?拾いもの?と言うかなんで日本語使ってんだ?」




辺りには酒の臭いが立ち込めている。お酒に耐性がない私はその臭いに耐えられないで、思わず鼻をつまんだ。




「ほら、そんなとこに立ってねえで入ってこいよ」


「え…………う、うん」




野猿に導かれるがままに足を進めて行く。奥に目をやるほど人は多く、酒の臭いも比例して強くなる。そいとそこらのバーなんかより強い臭いだ。そんなところに居るのはやはりいい年の男達。誰もかも黒い服に身を包んでいて、白い服なんて私だけのもんだ。否応にもかかわらず、私に注目が浴びているのは目をつぶっていても分かった。
…………私の唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえる。




「なんだ、その女」


「太猿兄貴。そんな怖い顔しないでくれよ」


「(…………でか)」




そんな男達の中から前に進み出たのは(当たり前だが)原作と何一つ変わらない太猿兄貴。どうやら今日はお抱えのナイスボディのお姉様はいらっしゃらないらしい。心なしか、顔が険しいように見えた。

当たり前か。こんな服を着た女を目の前にして、怪しまないほうがおかしい。




「例の女だぜ。あの白蘭の」


「!白蘭が拐ったっていう女か。…………こんなガキがアイツの好みなのか?」


「…………(違うっ!)」


「なんかこいつが逃げてるところに鉢合わせちゃってよぉ。何だかんだで…………」


「…………助けた、ってか」


「「γ兄貴!!」」




…………一番奥のほうから、低い声が響き渡ってくる。もちろん聞き覚えのある声だ。
私はその声を覚えると、何故か背筋になにか走った。




「まさか俺達の存在、バレてねえんだろうな?」




その人物はグビッと瓶のビールを煽る。…………きっと、強い酒の臭いはこの人のせいだ。




「…………あ」


「!?野猿、お前」


「い、いや大丈夫だって!向こうもなにも気づいていないはず…………」


「何が気づいてない、だ」





ガチャ…………。

私達の入ってきたドアから、再びドアの引きずる音が聞こえる。そこからはまた、黒い服に身を包んだ、背の高い人が何か引きずって入ってきた。こちらは見覚えのない人だ。そして引きずったものが私の目に入った。

私の目が狂っていないのならば、その男の手に引きづられているのは。





「?!」


「Marco? Oh, uomo?(マルコか。なんだ、その男)」


「あっ、そいつら!」


「Ciao, fratello di gamma. Questi ragazzi sono miei et che io stavo dice di essere che questo si avvicino. E che significa?(ciao、γ兄貴。こいつらが俺らのことを噂してたんで始末してきたとこだが…………どういうことだ?)」


「E sopravvissuto. Hey un altro perdita sarebbe(助かった。他に漏れてねえだろうな)」


「Vedete macellati. buona cosa mi(ちゃんと確認して殺ったから大丈夫だよ)」





かろうじて聞き取れた、『マルコ』という名。入ってきた男の名らしい。その男の手から滑り落ちた『物』は、無残な音を立てて倒れていった。

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