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雲珠桜は夏に彩る
逃れる先は、黒09







「………んで?お前これからどーすんの?」


「…………逃げる」


「無理だろ」





あれから数分後。
私の腰が治るまで待って付き合ってくれていた野猿。あまり詳しくは話せなかったけど、取り敢えずその間を利用して白蘭から逃げ出してきたことをかいつまんで話した。野猿はその間、その話を興味無さそうに聞いていた。
私は逃げて皆のところに戻りたいと言う旨をそんなにあっさりした態度で片付けられ、少しムッとした表情で睨み返す。





「何で。出口さえ教えてくれれば」


「無理だって。だってここ、イタリアだぜ?例え運良く外に出れたとしても金持ってねえんだろ?」


「う"…………うそ」


「白蘭だって逃がさねえって。あいつ、ねちっけぇもん」





頬杖をついて、ダルそうに欠伸をする野猿。
……そうか。やはりここはイタリアなのか。
落胆すると共に、ユカの頭の中では今の時点で最善の方法を考える。


空港で誰かにお金を出してもらって、あとで返すのは?

それとも野猿にお金を貸してもらう?

いっそ、泣き落とし?


駄目だ。現実的な案が今の頭では思い浮かばない。野猿にお金を貸してもらうのだって、ただえさえ迷惑をかけているのに、大金をせがむことは出来ない。





「…………ん、イタリア?」




ピンときた。




「ねえ、野猿!キャッバローネの所までの生き方教えて!」


「は?」


「それがダメなら…………いっそヴァリアーでもいいから!」





そうだ、イタリアには彼らがいる。
ヴァリアーに頼むのはなにかと恐ろしいが…………この場合キャッバローネがダメだったときはしょうがない。イタリアで立ち往生するより、彼らに送ってもらうなり金を貸してもらうなりしてもらった方が、数百倍ましだ。良い案をここで思い付いた。…………そう思った。





「やだね」


「な、何で」


「何でいちいち敵のアジトと教えなきゃいけねえんだよ。俺は敵なんだぜ?」


「あ…………」





ハッと、あざけわらうよう鼻を鳴らす野猿。
その態度が…………ユカの癪に触れた。





「…………分かった」


「ん?」


「じゃあもう、野猿に迷惑かけないうちに逃げるからさ」


「もうかけてるっての」


「煩い。………だから服。せめてそれだけ貸してほしい。ってか要らないの頂戴」


「ああ?」


「この服目立つし動きにくいし。逃げるとき邪魔だもん」





そんな態度ならこちらも遠慮はなし。元々長居するつもりはないし、要らない服の一つや二つ、もらっても構わないだろう。





「女もんの服なんて…………」


「男物でいいから。シャツとかそういうので全然構わないし」


「…………本気か?」


「何が」


「逃げんの」


「真面目も真面目、大真面目」





私は野猿の目と睨み付けるかのように視線を合わせる。私は早く帰りたい。皆の元に、…………雲雀さんの元に。
そんな思いが通じたんだろうか?野猿は一つため息をつくと、急に立ち上がった。





「あ、ちょっと…………」


「ついてきな」


「?」




野猿は親指で、通路の奥を指差す。




「連れてってやるって言ってんだよ、俺達のアジトに」


「!…………野猿」


「言っとくけど服やったらすぐ出ていけよな!太猿兄貴達に迷惑かけらんねえし、かけ
たらぶっ殺すかんな!」


「うん!」





ありがとう、野猿。
私は笑いながらお礼を言うと、更に野猿は顔を赤らめた。男ばかりのとこだから、女慣れしていないんだろうか?野猿はさっきよりも大股で歩き出し、私はそのスピードに必死についていった。

やっぱり優しい奴だ、野猿は。

そのとき私は忘れていた。野猿達のアジトと言うことは、あの人達もいると言うことに。





「おら、早くしねえと置いてくぞ!」


「えっ、待ってよ!この服歩きにくいんだから!」


「そんな服着てる方がわりいんだよ」







「(あれ?野猿って…………確かメローネ基地ワープ時に死んでなかったか…………?)」






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