雲珠桜は夏に彩る 非常時での日常12 逃げ場は無い。 話をすり替えることも出来ない。 それをユカは、二人の目を見て悟った。 女はどうしても恋に生きる生き物。例えそれが他人の話でも漫画やドラマ、小説の話でも関係がない。そこに『恋』とつく名の物さえあれば群がるのが女。それが女の性なのかもしれない。…………ビアンキが良い例だ。 二人の期待の含んだ目を見て、ユカはふとそう思った。 「さあ、ユカさん!大人しく白状してもらいます!」 「白状…………って」 「私、馴れ初めが知りたいなあ」 そう言って笑う京子ちゃん。どこぞの男子がいつも「天使みたいな笑み」とかなんとか言って騒いでいた笑みを浮かべているはずなのに、どこかしら断れない雰囲気がある。あくまで天使みたいな笑みのままなのに、だ。 本人はきっと、自分の笑みにそんな意味が含まれているなんて考えもしていないのだろう。自覚していたら色々と問題だ。 「馴れ初め…………って言っても」 「はひ?じゃあ告白されるまでの成り行きを教えてください!」 「成り行き、ねえ………… 直前まで、喧嘩してた」 「はひっ!?」 「え」 二人が顔を見合わせる。 確かに一日越しとはいえ、喧嘩の後の告白とはなんとも…………ロマンティックとはいえない、と思う。 「最初、私が雲雀さんの部屋に言って…………で、ちょっと私が切れて喧嘩しちゃったの」 「何でです?」 「え…………ちょっと悲しいこと言われたから、かな」 「悲しいこと…………」 「そんで私が枕投げつけた後、ふて寝しちゃって。朝起きたら…………」 「告白?」 「…………うん。謝られて」 「そっか」 良いなあ、好きな人と結ばれるって。 京子ちゃんもハルも私に微笑みながら、そう言った。 「…………やっぱりこんなこと他人に話すのは恥ずかしいよ」 「でも嬉しかったでしょ?」 「そ…………そりゃあ好きな人から言ってもらえたら、ね」 「私もツナさんに言ってもらいたいですぅ!ツナさんー!」 うわあ、と枕をパフパフと叩くハル。そのせいで埃が舞った。よほど羨ましいのだろうか。京子ちゃんもうっとりとしたような目で考え込んでいる。 …………そうだ。好きな人から好いてもらうということは、こんなに凄いことなんだ。 こんなに沢山の人が溢れているこの世界で、たった一人を見つけ出し、結ばれる。それは奇跡みたいなことなんだ。だから『運命』という言葉が使われるし、だから皆が『恋』に憧れているんだ。きっと。 恋をする上で、素敵な感情も醜い感情も人間の持ちうる全てが表れる。それは当たり前の事。でも、本当に運命と言うものがあるというのなら…………きっと、それらも運命で乗り越えられるのかもしれない。 だとしたら、きっと雲雀さんは私の運命の人だ。例え向こうがそう思っていなかったとしても…………。 「…………って!!!」 「どうしたの、ユカちゃん?」 「なんかハルのせいで変なこと考えてた!」 「はひっ!?ハルは思ったままを言っただけですよ!」 うわあ、と少し湿っている髪をわしゃわしゃと掻き回す。こちらに来て、ずっと伸ばしっぱなしになっているその髪は、見るも無惨な姿に変わっていった。それでもやはり、恥ずかしさの方が勝っている。 心の中は誰にも知られないのが救いだ。 京子ちゃんとハルは、そんな私を見て悪戯心…………と言うか好奇心が沸き上がってきたらしい。私がそんなことを言うもんだからと今思っていたことを聞き出そうとして来た。それをかわすため、私は傍の布団に潜り込んだ。 [*前へ][次へ#] |