雲珠桜は夏に彩る
非常時での日常04
クロームの部屋についた。不用心にもドアの鍵は掛かっておらずドアも少し開いている。
両手一杯に料理を持っている私からすればありがたいのには違いないし、こんな地下……と言うか、マフィアの基地にまさか泥棒等が入ってくるわけがないと分かってはいるのだが、やはり用心に越したものはない。
そっとドアを押すと、中から小さい声と高い声が漏れてきた。
「…………い、しー!…………」
「うん…………」
耳を澄ませると、その高い声がイーピンの物だと言う事が分かる。そう言えばあの子もここに来ていたんだ。
私は二人を驚かせないよう、一つ二つノックをしてから部屋に入った。
「クローム、入っていい?」
「!ユカ…………」
「★〇]*!」
ひょこっと顔を覗かせると二人の姿が見えた。二人並んで座りあんまんを少しずつ食べているところは見ていてとても微笑ましい。
これならば、私の必要は無かったかも。
「それ(あんまん)だけで足りてる?一応食事、持ってきたんだけど」
「『グー』…………あ」
「…………必要みたいだね」
「★〇;・]!」
小さく自己主張をするクロームのお腹。どうやらあんまんで食欲に火がついてしまったらしい。クロームは恥ずかしそうに染まってく顔を隠す前に、お腹の方を押さえた。
あんまりにもそれが可愛らしくて、私は思わず微笑んだ。
「じゃーん。京子ちゃんとハル特製、愛情たっぷりオムライス!」
「愛情…………?」
「そう、愛情」
得意気にオムライスが乗ったトレイをクロームに差し出す私。急いできたお陰でそれはまだ湯気を立てており、私が食べたときと同様に美味しそうな香りを匂わせていた。
そんなオムライスに、クロームは本当に恐る恐る…………といった感じで手を伸ばしてきた。私からトレイを受けとると、すぐには手をつけずにじっと見つめている。
私はそれを見て、クロームの横に座っていたイーピンを自分の膝の上におくようにしてクロームの横に座った。
「…………」
「お腹空いてないの?」
「…………」
ううん、と首を横に振る。
…………あ、そうか。
「…………」
人がこんなにも見ていたら食べにくいんだ。
イーピンだって気を使ってあんまんをかじっている(夕飯は済ませてあるのに)
だから、不自然でない程度に空を見るようにした。
すると、恐る恐るスプーンをオムライスに伸ばし…………口に運んだ。
「!…………おいしい」
「でしょ?」
「うん。…………ユカが前作ってくれた、あのオムライスの味」
「あー、愛情こもってる自体は一緒だからね…………なんて。もしくはそれが手作りの味ってやつ?」
「あいじょう…………?」
「そのオムライスには、たくさんの愛が詰まっております」
私は冗談めかした風に笑った。
……すると、クロームは少し頬を染めたかと思うと、目に見える形で肩を落とした。心なしか、眉尻も下がっている。
なにか地雷を踏んだのだろうか?だとしたら何に。
私は少し焦りながらクロームを覗き込んだ。
「え、あれ?なんか私変なこと言った?」
「…………」
ゆっくりと横に首を振る。
「?」
「…………分からないの」
「何が?」
「どうすればいいのか、分からないの。あの子達に…………」
カチャリ、と持っていたスプーンを置く。
クロームが言っているあの子達と言うのは察するに、ハルと京子ちゃんの事らしい。
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