雲珠桜は夏に彩る
新たな問題…………?04
「…………」
商店街の真ん中をふらりふらりと無言で、更にうつ向いて歩く少女。周りの人たちはそれを異様な目で見つめ……そして見守っていた。
「……きつい、眠い、腹へった」
さっきから似たような言葉ばかりを発する少女……ユカは、まるで人生に敗北を告げられた感が漂っている。
それもそのはず、結局今日は助っ人を承諾してから、昼休み全て練習に割かれ、放課後も本当にギリギリの時間まで練習を続けた。試合に出るのだ。やるからには勝ちを狙いにいくのは当然だし練習が楽だなんて思ってなかった。それに、お陰で昔養った勘もかなり取り戻せたが……お釣りとしてはこの疲れ。明日筋肉痛になることは間違いない。
……今日はバンテ〇ンが大活躍だな。
そして明日の朝は、雲雀さんとクラスメートに貼りまくった湿布臭さを罵られるんだろう……。それを想像すると、更に疲れがドッと肩に上乗せされた気がした。
それで勘のいい雲雀さんが気付かなければ良いのだが。
私はふと、沈みかけている夕日に目を向ける。
「綺麗だな……ああ、夕日に向かってこの疲れから逃げ出したい……「何いってんだ?ユカ」……へ?」
ポン……と肩に少し重さが増えた。
一瞬、疲れがついに頭を可笑しくさせたか……と思ったが、どうやら違うらしい。
私は振り向いて言葉をなくした。
「ディーノさん!ロマーリオさん!」
「よお、久しぶりだな」
「ユカ嬢は無事そうで何よりだ」
そこにいたのは私もよく知っているディーノさんとロマーリオさん。
夕日に淡く照らされたディーノさんは相変わらず男前だ。
「何で二人がここに……」
普段なかなか会えない二人だ。いつもなら会えた事に上がるテンションも、今日は流石に疲れが勝ってしまった。ものすごくだるそうな声になる。
「こっちにはいくつか仕事を持ってきたんだが……お前こそどうしたんだ?そんなに疲れて」
「ああ……これにはふかーいふかーい訳が……うん、あると思います」
「お、おい。大丈夫か?」
「ええ。そうだ、聞いてくださいよ……」
「うん?」
私はそのまま、この疲れの原因であるテニス部関連のことを長くならない様に説明した。
ツナ達がいなくなってからは極端に相談に乗ってくれる人が少なくなっていたので、全て喋り終わる頃には気持ちがさっぱりして、少し疲れが取れた気がした。
女と言うものは共感してもらえることが大事で、そのために話すことが好きだとか長いだとかいうけれど、そんなことで気が紛れる自分も大概だなと笑ってしまった。
「……と言うことなんです」
「そりゃ、また大変なことしてんなあ」
「なんせ体力もないし……これからもうひと頑張りで食事作らなきゃ」
はは……と力のない笑い声で答える。
ディーノはそんな疲れた私の姿を心配してくれてるみたいに、私の頭に手を置いた。
「……なあユカ。実はだな、お前にいい話があるんだ」
「え……いい話?」
「ボス……それをここで話すのか?」
「いや。だからお前んところ……恭弥ん家に行こうと思ってな!ツナ達のこともちゃんと話したいし……」
…ツナの名が出た途端、ディーノの顔に影が入った。それは明らかにツナの話題を出してからだったので、ツナの事をかなり心配しているのが窺える。…当然だろう。
「……大丈夫です。ツナたちは絶対に帰ってくるんだから」
「……ん?」
「何でもないです!さあ、さっさと帰りましょう!」
私は無理矢理笑顔を作ってディーノやロマーリオに向けた。
今の聞かれただろうか?
気づいた時には口走ってた言葉、断定的に言ったのも完全に無意識だった。二人とも気づいたときには私の顔を覗き込んでいた。心配してくれている顔だった。
……そうだよ、皆きちんと帰ってくるんだから。
それからは私は、熱くなった目尻が見られないように軽く急ぎ足で帰宅への道を歩んでいった。
アスファルトに映された固く握った拳を二人に見られないように……。
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