雲珠桜は夏に彩る 新たな問題…………?03 「と言うわけで無理でした。ごめんなさい」 「ええっ!そんな……むぐっ「……そっか、ごめんね急にこんなこと頼んで。ありがとう」……むー」 次の日の昼休み。私は改めてテニス部の子達に集まってもらい(と言うか一人に声をかけたら皆が集まった)、結果を報告した。 承諾は得られなかった……と言うことを頭を下げて言うのは正直勇気がいった。期待をもたせるような返事をしてしまっただけに、不満の一つや二つは出てきて当たり前だろうと思ったからだ。でもテニス部の皆はそんな私を責めることなく、むしろ「ありがとう」と感謝の言葉を出してくれた。 「元々無茶苦茶なお願いだったもの。しょうがないわよ」 「でも!…試合はどうすんだよ」 「それは……」 そこで行き詰まる眼鏡の子。流石にそこまで考えがあったわけではないみたいだ。多分、私が最後の砦のようなものだったのであろうから。 私はその様子を見て少し考えたあと、やはりこれしかない、と手を恐る恐る上げた。 「あの、ちょっと提案があるんだけど。私、遅くまで練習は無理だからさ。せめて朝練とか昼休みとか放課後の少しとか……そう言う時間にやっちゃダメ……かな?」 「昼休み?でも家の人がやっちゃいけないって……」 「だから秘密で!勿論出ていいなら試合もやるし」 「え……本当に!?」 「うん!」 この人達の力になりたい。私がそう思ったのは、本当の気持ち。きっとここで私が謝って断ることは簡単だ。そしてその後見て見ぬ振りをすることも。…だか、そう思ったことが本当ならば、例え雲雀さんにでも内緒でやらないでどうする。 私は皆に笑いかけた。 「笠原さん…………いや、ユカちゃん!!」 「うわっ?」 「ありがとうっ!!」 今度は一斉に皆が飛び込んできた。予測出来なかった私はそれを咄嗟に手を広げて受け止める。 一気に五人分の体重がこの手にかかったのは……正直キツい。でも、ここまで喜んでくれるなら本望本望!とばかりに私は五人にふわりと笑う。 ……少しでも力になれたら、な。 「……よし!感謝はここまで!!」 「……ん?」 眼鏡の子……面倒だから眼鏡ちゃんは私の腕の中からガバッと顔をあげた。 一斉に飛び込んできたのを受け止めているうちに母性本能みたいなものが芽生え始めていた私は、それに首をかしげる。 「時間は少ししかないんでしょう?なら今から練習しに行くよ!!」 「え……今?」 私お弁当食べてない……って眼鏡ちゃんキャラ変わってない? 「ほらっ、ユカちゃん!」 「えっ……ええ?」 ずりずりと私の腕を引っ張る眼鏡ちゃん。 戸惑う私に利季って呼ばれてた子が、こっそりと私に耳打ちしてきた。 「……ごめんな、綾って変なスイッチ入ったらテニスバカになるんだ……」 「え……めが……綾ちゃんってそんなキャラなの?」 ってか眼鏡ちゃんって綾って言うんだ。 「ほら、逝くわよ!」 「なんか漢字変換違くない!?」 「あってるあってる」 「ええ〜?」 「あれは……笠原…?」 誰も引き寄せず、群れる事を嫌う鬼の風紀委員長……雲雀恭弥を補佐する副委員長、草壁哲矢は誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。目線の先には、ユカが確かテニス部……の女子にずるずると引きずられている。 「……何やってんだ、あいつ」 はて?と首をかしげる。 草壁とユカは知らない仲ではない。前に一度会ってから何かと意気投合してきた。 「草壁さん、めげずに頑張ってください!(いつでも不憫すぎて……)」 と言われたときは思わず涙が出そうになった。(その場の勢いでユカの手を握ってしまって偶然居合わせた雲雀に咬み殺されるというオプション付きだったのだが) 普段……生徒からは恐れられ、風紀委員からの異様なまで重い尊敬の眼差しを受け、雲雀からは蔑ろにされている身にとって、その一言は非常に心に染みた。勿論自分は雲雀を尊敬してついていっている身なのだから、どんな扱いでも正当なものとして捉えてはいるのだが。 とにかく以来、ユカとは雲雀が不機嫌にならない程度に仲良くさせてもらっている。(そしてぶっちゃけると、これが初めての女友達で惚れた相手とも言える。……まあだからと言ってどうしようとも思わないのだが) ……そう言うわけで一応視界に入ったら追うぐらいの事はしていた。 「あいつテニス部なんかに入ったのか?……よく委員長が許してくださったな……」 引きずられながらも満更じゃない顔をしているユカ。草壁は更に首をかしげた。 ……群れるのが嫌いな雲雀が部活に入るのを許すと思えないが……。 それにユカは雲雀家の家事まで受け持っていたはず。部活なんかやってそれが両立できるのだろうか? 「……後でそれとなく、委員長に尋ねてみるか」 そのまま草壁は踵を返した。 丁度目に入ったところに、制服を着崩している奴がいたのでそっちを狩ることに集中した草壁であった。 [*前へ][次へ#] |