雲珠桜は夏に彩る
最後は笑うだけ01
「………草壁さん、本当に大丈夫ですか?」
「?なにがだ?」
「なんか…………雲雀さんに無理難題を押し付けられて寝不足になったときより表情が暗いです」
「…………そんなに酷いか?」
「ええ」
こう…………生気が無いって言うか。
頭の中で持っている語彙を使ってあれやこれやと合う表現を探してみるが、これがなかなか見つからない。何かしらの表現を見つけても何か物足りない。
だから私はその事を草壁さんに言ってみると、草壁さんはあのごつごつした大きな手で口許を押さえた。肩が若干震えている。
「あ、笑った」
「…………俺は今徹夜明けの顔より酷いか」
「そう言ってるじゃないですか」
目の前であんまり可笑しそうに笑うので、なんか本気で心配し始めていた私がバカらしくなってくる。そう思って唇を尖らせていると、「すまん、すまん」と草壁
さんは頭に手を置いてきた。
「そんなに酷いなら今日はもう、休むことにするか」
「そうしてください」
草壁さんが倒れちゃったら誰が雲雀さんの補佐をするんですか。
多分草壁さんが倒れて一番困るのは雲雀さん。それは目に見えている。本人もわかっているはずなのに素直じゃない。少しは草壁さんを労ってあげれば良いのに。
…………ま、雲雀さんが素直じゃないのは今に始まったことじゃないけど。
「##name_2##」
「…………はい?」
「恭さんの事を…………頼むな」
「へ?は、はい?」
突然の言葉に、私は意味も分からず頷いてしまった。
急にらしくないことをいう。それほどまでに疲れているのだろうか?…………いや、「恭さんを頼む」ってことは、雲雀さんも……?
そう考えたら、早く雲雀さんの顔をみたい、そう思った。
私はポッケから残り三つとなった包み紙に包まれている物を取り出す。
「草壁さん。これあげます」
「?チョコ?」
「はい。疲れてるときは糖分が一番です!」
「悪いが甘いものは…………」
「これ、ビターなんで大丈夫です」
持っていたチョコのパッケージをぴらっと見せる。そこには強調するように『70%カカオ』と書かれていた。甘いものが苦手な私の周りの人のためにと、前から買っていたものだ。それが今、役に立った。
草壁さんはチョコをつまみ、恐る恐るといった感じで口に運ぶ。
「甘くない…………が、少しチョコにしては苦くないか?」
「そんなもんです」
「そうなのか?」
「はい!これ、雲雀さんの分もちゃんとあるんで渡してきますね」
「フッ…………ああ」
「草壁さんも早く休んでください」
「ありがとう、##name_2##」
そう言った草壁さんの表情は少し、明るくなった気がした。
…………良かった。
私は草壁さんに手を振って微笑んでから、雲雀さんの自室と言う部屋へ急いだ。
草壁さんが後ろで、微笑みながら私を見ているような気がした。
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