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雲珠桜は夏に彩る
悩める者達10







雲雀side




混乱していない、と言ったら嘘になる。
でも、心の奥のどこかで冷静な自分がいるのも確かなんだ…………







草壁に(無理矢理)連れ戻されてから、僕は十年後の僕の部屋という所に通された。基本的には物は何も置いてはいない。それは今も昔も変わらないみたいだった。

正直、十年後というのも最初は信じてはいなかった。突然見知らぬ場所に居たのは驚いたけど、すぐにユカもこちらに来たし、床に転がっていた山本武も大人じゃなかった。
でも…………いつも何かと働いてもらっている副委員長は遠目からはよく分からなかったけど、(僕より元々大きかったのに)更に身長が伸びて、とても中学生には見えなかった。何より、事が進むうちに、自分の知っている世界ではない。そう自然に思えた。

僕はゆっくりと広い和室の部屋に足を進めていく。畳を踏めば、い草の匂いが鼻についた。







「…………」







ふと、近くに置いてある物置の様な物の上に目がいった。それはこの部屋にある、数少ない家具の一つだった。
その上には写真立てが一つ、申し訳なさげに一つ乗っていた。自分の性格では写真を飾るなんてこと、するはずがないと思っていたので目が留まった。





…………未来の自分は何を考えてこれを置いていたのだろう?





そう思って手に取って見た。








「…………!」








衝撃を、受けた。



僕と…………ユカが、二人で桜を背景に撮られている写真だった。姿形は今と対して変わらない。
勿論僕にはこんなもの、撮った記憶なんてない。ここが未来ならば…………僕が来た過去より、後に撮られたものなのだろうか?


珍しいものを見るようにまじまじと観察する。写真の中の自分は、心なしか口の端が上がっているような…………。

他に何かないか、と引き出しも漁ってみる。すると、あった。今度は僕宛に送られた封筒が何枚か纏められていた。
差出人は…………沢田綱吉。

その写真達には、写真立てのように二人で撮ったものはない。それどころか自分は数枚、しかも端のほうにしか写っていなかった。その写真の束の全部に写っているのは、ユカだけ。
一緒に写っているのは草食動物だったり女の子だけで写っていたり…………。
共通して言えるのは、どのユカも幸せそうに笑っているということだった。









「その写真、沢田達が送ってきた物ですね」


「!」








低い声が後ろから響く。慌てて写真を隠すようにして振り返ると、そこには草壁が膝をつき、こちらを見ていた。口には勿論彼のトレードマークの葉が咥えられている。








「………君、人の部屋に入る時はノックするという一般常識も忘れてしまったのかい?」








そういう雲雀の声には、明らかに嫌忌の意が込められていた。顔も勿論強張っている。
それを一瞬で感じ取った草壁は、額を畳につける勢いで頭を下げる。








「す、すいません。一応ノックはしたのですが、恭さんが写真に夢中のご様子だったので…………」


「………………………………そう」








自分はノックに気付かないほど写真に夢中になっていたのか。

そんな自分にさらに驚く。今日は驚くことばかりだ。

草壁は、思った以上に雲雀の機嫌が悪くないと言うことを感じとり、言葉を探り寄せるよう、ゆっくりと語りかける。








「その写真立てのほうの写真…………恭さんはとても大事になさっていました」


「?」








この場合、『恭さん』というのは未来の自分ということでいいのだろう。
草壁はゆっくりと面を上げながら話しだした。その目はどこか、遠いところを見ているように見えた。








「笠原と恭さんが二人で撮った写真と言うのが、その一枚しか無かったんです。恭さんはそれを後悔してなさっていました………。それを見かねた沢田が、今まで撮った笠原の写真を送ってくれたのです。
恭さんはそれを『群れるのは嫌いだ』とか言ってなさいましたが…………ちゃんと引き出しの中にしまってなさっていたんですね」


「?」







どういう意味だ?

草壁の言葉が雲雀の頭に引っかかった。その言い方じゃ、まるで…………








「…………そうか、まだそちらではいたんでしたね、笠原は」


「…………どういう意味」







まるで…………僕の前から消えるみたいな。










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