みつめてナイト フォローストーリー 中華皇国の剣士 〜劉鋼燕青(りゅうこうえんじょう)編〜 冬に入ってかなり冷え込んでくる頃。 戦の兆候は無く、表面上は平穏な毎日が続く。 まだ1年目のおれたち傭兵は訓練所に通う毎日である。 しかし、ヤング教官の後任の訓練士官は官僚的で、全くやる気の無い人であった。 おかげで訓練中の私語なんかもできる訳なのだが。 「ふわぁ〜あ、平穏無事なのは良いが、こう毎日では退屈でいかんなぁ。」 あくびとともにさくやがぼやく。 「毎日あれだけ酒を呑んでおいて言う事か?」 「酒は人生の友って言うだろう?別に酔って騒動を起こしちゃいないんだから、まっ、大目に見てくれよ。」 「まあ、気持ち良さそうに酒をがぶ飲みしているし、決して安酒には手をださないし。」 「まるでお水を飲むかの様にがぶがぶ飲んでるもんねっ。」 「きちんと味わっているからな、うまいものを呑まずに死んだら人生の半分は損っていうもんだ。」 「へぇ、そうなんだぁ。でも、ジーンと飲んだほうがとってもおいしいんでしょ?」 「まぁな、佳い女だぞありゃぁ。内に秘めた女っぽさが気に入った!!」 「で上手くいってるのっ?」 「そうさなぁ、ゆっくりと落とさせてもらおうかな、焦るのは俺様の趣味じゃないんでね。」 にやりと笑うと、さくやは大剣を弄びながら話題を変えた。 「しかし、この腕が泣いてるぜ、発揮する機会もないんじゃぁなぁ。」 「いいんじゃないの?何にもしなくても結構いい給料もらえるもんねっ。」 「しかしなぁ・・・実戦もなければ感触ってもんを忘れるしなぁ・・・俺が来る前に暴れ熊もお前達が退治しちまうし。」 「あぁ、確かにさくやの剣なら一刀両断かもしれなかったな。」 「しかしまぁ、羨ましい限りだ、おまえやハジメは一度戦っているんだからな。」 「でも激戦だったんだぞ、騎士団は壊滅状態だし、敵中でしんがりを任せられるし。」 「捨て駒同然だったもんね、そうでも無ければ大将首とか取れそうに無かったんだけどねっ。」 「最前線こそ漢(おとこ)の華ってぇもんだまぁ、死ぬかもしれないんだがな、はっはっはっは!!」 さくやが豪快に笑い飛ばしたその時、教官に見つかり腕立て伏せを100回やらされた・・・。 俺達にはそんなにきつくないものの、見せしめとしては効果充分だったらしく、その日は一日中私語は慎まれたようだ。 12月2日 早朝 サーカス小屋の前に1人の男が猛獣の檻の前に佇む。 「ふふふふふ、こうして餌に興奮剤を入れておき、鍵を開けておけばどうなる事やら・・・。」 仮面で顔を隠したピエロが呟く。 「燐鉱石を独占販売させない為に、ドルファン国内に混乱を与え、政治的圧力を加える任務につくはめになろうとは。」 この男はかなり身が軽く、まるで背中に羽でもはえているかのように埃一つもたてないかのようである。 「これで一応準備は整ったかな?他の者はアリバイづくりの為に全員酒場にいる事になっている。まぁ、俺のアリバイは他の奴が俺の身替わりになっていてくれているはず。」 黙々と作業を終え、鍵を剣の柄で適当に壊した。 「さてと、こんなものかな。しかし、さっさと去らねば誰に見つかるかもわからないな。早々に退散するとしよう。」 そして檻から離れる時にしばし立ち止まり、 「お前達には罪はないのだが、これも任務。許してくれよ。」 と言葉を残し外に出た。 「今日は私がこの格好でうろつく訳にはいかないな。いい機会だからちょっと寄ってみるか?」 そんな事を呟きつつ自分の思考には苦笑してしまいそうだった。 (国を捨てても妹の事だけは気にかかるとはな。1日中暇な今日はこっそりと様子でも見に行くとしよう。) ピエロは軽くジャンプすると、テントの端に飛び上がり、屋根づたいにマリーゴールド地区の方へと消えていった。 キャラウェイ通り 待ち合わせによく使われる時計台の下で1人怪気炎を上げている女性が立っている。 「さあて、今日は仕事お休みだからブランド品買いまくるわよぉ〜!!」 その女性とはスーであった。 しばらく立つと誰かが来ないのかイライラしながら辺りを見回す 「遅いわねぇ〜あのコなにやってるのかしら?今日は2人で買い物に行くって決めてたはずなのにねぇ〜。」 スーがそう呟くか呟かないかのその時、遠くの方から一際目立つポニーテールと『どいて〜どいて〜』と黄色い声を上げて突っ込んでくる人影。 しかも、通りの人混みをものともせずにまっすぐに時計台の方へ向かってくる・・・。 スーはその人影に手を降り自分の居場所を知らせる 「キャロル!こっち!こっち!!」 合流したとたんに鬼の様な顔をしたスーが大声で怒り出した。 「おっそいわよ!もう30分も遅れてるじゃないっ!」 「あー、ゴメンねぇ、ちょっと支度に手間取ちゃってさー。でもいいじゃん。たった30分だけだったし。」 愛くるしい笑顔で自分の非を上手くかわそうとしている・・・らしい・・・。 「そうねぇ、たまに1時間遅れても平気な顔をしているものねぇ、あなたって。」 「きゃはははは、あまり考え込んでもしょーがないじゃん。きらーくに行こうよー。」 「今日は日頃にたまったストレスを発散しにショッピングよぉ!」 「おー!今日はトコトン付き合っちゃうかんねー!!」 「まったく、調子がいいんだから〜。」 すっかり和解をした2人は店の中に入っていった。 [次へ#] [戻る] |