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SPIRIT OF MASTER
†††



月の虹を集めて

宝石を作る

月光を受けて、色を変えるその宝石を

月虹石、と呼ぶ





優雅にティーカップを口元に運びながら、思案顔の少年が一人。

黒髪に黒服。

およそ、少年らしからぬ服装と、落ち着いた物腰。
その右目には水晶石を下げた片眼鏡(モノクル)。


重厚な広い部屋に、薄桜色の湯気がカップから立ち上る。

甘い香りのする液体に、少年は息を吹き掛けたが、それは溜め息のように思われた。


「…お気に召しませんでしたか?伯爵。」


傍に控え、ティーポットを持つ、長身の青年が気遣わしげに問う。

青年に伯爵、と呼ばれた少年は、ふと、顔をあげた。


「いや…美味しいよ。」


安堵させるように、伯爵が微笑んだ。


「…差し出がましいですが…何かお気掛かりがお有りなのですか?」


赤いリボンタイを結んだ、これまた黒服の青年が再び控えめに問う。


「…少し…気掛かりと言えば気掛かりなことがあってね…。」


伯爵は憂いた顔で、片眼鏡(モノクル)を押し上げ、ティーカップを傾ける。
桜色のお茶は、細い咽喉を落ちていく。


「昨日から、泣き声が聴こえるんだ。遠いけれど。」

「泣き声、ですか?」


青年が首をかしげた。
彼には何時も通り、穏やかな夜に思われた。


「…人間…らしい、ね。」


呟いた伯爵の言葉は、そうなのか、そうでないのか、図りかねた。


白い指先が音もなく、ティーカップを置き。
視線を窓の外に注ぐ。

真摯な、眼差しで。


窓の外には、闇。

時折、夜光蝶が横切る。


「シャ・リオン。」


伯爵が青年を呼んだ。


「はい。」


青年が応える。
仕事を告げるだろう、主人(マスター)の声に、年若い執事は居住まいを正した。







伯爵が声の主を探して辿り着いたのは、一面に咲く星鈴蘭の丘。

顔を手で覆い、声も微かに嗚咽を洩らすのは。


「何故、泣いてる?」


伯爵は自分と同じくらいの…同じくらいに見える…少年に話し掛けた。


「なくしてしまった。」


少年は地面に座り込んだまま、伯爵を見上げる。


「大事なモノかい?」

「うん。」


少年の大きな瞳が、まばたく度に大きな涙を零す。


「探してあげようか?」


伯爵の問い掛けに、少年はふるふると首を振る。







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あきゅろす。
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