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アイザキガカリ 番外編
4
 愚かにも俺はあまりの驚愕に彼女の後を追うことができなかった。ものすごい失態だ。
 突然口数の少なくなった俺を、顔色が悪いと言って相崎はすごく心配してくれた。
 しかし、俺はそんな相崎に女の子が俺たちを見ていたことを言いだせなかった。
 彼女をすぐ追わなかった失態を卑怯にも隠そうとしたのと――俺がつまらない嫉妬心からした行為のせいでこんなことになってしまったのだから、自分がなんとかしなければと思ったからだ。
 それに相崎はただでさえ忙しい奴なのにこんなことで悩ませたくなかった。相崎に知られないままなんとかできるのなら、それが一番だ、そう思った。
 ――だけど。
 俺は自室の机に突っ伏すようにして頭を抱えた。
 俺はいい。見られたところで写真を撮られたわけでもないし、俺個人を特定される可能性なんて低い。見られたのが俺だけだったら「どこかの男子高校生が男とキスしてた」程度の認識だろう。
 だけど相崎はちょっとした有名人で、俺とはわけが違う。
 おそらく顔と名前を伴って今日のことは広まる。そしていつかうちの学校にもそれが届いて――。
 なんとかできなかった時のことを想像するだけで恐ろしかった。
 相崎が好奇の目にさらされるなんて嫌だ。
 絶対になんとかしないといけない。
 そう思ってずいぶん長い間机の前で考えたが、あの女の子を探し出して誰にも言わないように頼むことしか思いつかなかった。
 考えた時間の割には、あまりにシンプルだが相崎を守るには結局のところそれしかない。
 俺は彼女の学校からつきとめることにして、裕介に電話をかけた。
 裕介には今年高校受験の妹がいる。だから裕介の妹ならここらへんの女子高に詳しいかもしれない。
 裕介はすぐに電話にでてくれた。あいさつもそこそこに用件を切り出す。
「あのさ、ウチの高校の近所でさ、茶色いブレザーで青っぽいチェックのスカートの学校ってどこだか知らない?…えーっと、たぶんコートも指定で紺のダッフルコートのところ。女子高らしいんだけど」
 できるだけ記憶をたどりながら詳しく話す。学校を間違えてしまっては元も子もない。
『どうした?もしかして可愛い子でもいた?』
 俺の熱心さに何を勘違いしたのか、裕介の声は嬉しそうだ。
「いや、そういうんじゃなくって…ちょっと理由は言えないんだけど」
 裕介は妹に聞いてみると言って折り返し電話をくれることになった。
 電話を前に置いてまんじりともせず待っていると、ほどなく着信があった。裕介だ。
 俺が言った制服に該当する学校を幸運にも裕介の妹は知っていた。茶色のブレザーと青いチェックのスカートの制服はこの近辺だとひとつしかないそうだ
 礼を言って電話を切り、地図を広げる。
 裕介に教えてもらったのは、うちの学校からバスで20分ほど行ったところにある私立の女子高だった。
 今日乗ったバスから考えても、どうやらそこで間違いなさそうだ。
 彼女をつかまえるには、朝に校門の前で待ち伏せするのが一番だろう。なんといっても口止めするなら早ければ早い方がいい。
 彼女の学校は俺の家から自転車だと相当の距離で、バスだと途中で路線を乗り換えなければならないところにあった。
 だけどそこから俺の学校に戻るのにはバスよりも自転車で直線距離を行った方が早そうだ。
 なら自転車にするかと思って、今日は学校に自転車を置いてきてしまったことを思い出す。起きる時間はさらに早まるが、一度自分の学校に寄ってそこから自転車で行くことにして目覚ましをセットした。
 
 
 目覚ましは必要なかった。
 俺は一睡もできず朝を迎え、バスに乗って学校に行き少しでも身軽になるために教室に鞄をおくと、とってかえして彼女の高校へ全力で自転車のペダルを漕いだ。
 どうにか道に迷わずに着いた頃には息も絶え絶えで、頬を流れる汗にコートも鞄と一緒に置いてくればよかったと後悔する。
 あたりには朝練に向かうらしい生徒の姿が既にちらほらと見えた。
 だけど彼女はあんな時間に帰っていたのだから、たぶん朝練のあるような部活はやっていないはずだ。だからこうしていれば彼女が見つかる可能性は高い。
 そう願って校門に向かう女子高生の顔を一人一人確認しながら、彼女を探し続ける。
 しかし始業時間が近づくにつれて女子高生の波は増えていき、そうなると最後には前を通り過ぎる子の顔を見逃さないようにするのが精一杯になってしまった。
 だから俺は彼女を見つけるのに夢中で、相崎から来たメールにまったく気づかなかった。

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あきゅろす。
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