アイザキガカリ 1 市川和樹。 新学年を迎えて、俺の新しいクラスは3組。そして新たに振られた出席番号は2番だ。 クラス分けが貼られた掲示板をみて俺は密かに胸をなでおろした。 これといって話すほどのとりえも趣味もないせいか、俺は自分のことを話すのがあまり得意ではなく、新学期にはつき物の自己紹介がトップバッターでないというのは大層ありがたいことだ。 それにしても出席番号が1番じゃないなんて何年ぶりだろう。そう思いつつも、あまりの人ごみにクラスの他の面子をチェックすることはあきらめて、俺は掲示から離れた。 「いっちゃん、3組だろ?」 聞き覚えのある声に振り向くと案の定、友人の多田裕介がいた。 「うん。裕介は?」 「俺も!」 「まじで?」 これは非常に幸先がいい。裕介とは中学が一緒で、高校に入ってから同じクラスになったことはないのだが、気心はしれている。人間関係の再構築にそれほど悩むこともなさそうだ。 俺は裕介と肩を並べて教室へ向かった。 「俺さー、珍しく出席番号1番じゃないんだよ」 「うん、知ってる。でも、いっちゃん実質一番ぽいよ」 どういうことかと裕介を見ると、裕介は声を潜めていった。 「1番の相崎貴史ってさあ、不登校なんだよ」 フトーコー。 耳慣れない言葉はすんなりと理解できなかった。 裕介は声を潜めたまま続けた。 「俺ね、去年同じクラスだったんだけど。相崎って夏くらいから学校に来てないんだよ」 「え…と」 「いじめでとかじゃないよ、たぶん。そういう奴いなかったし、あいつむしろ近寄りがたい感じだったし。…誰も理由はわかんないみたい」 公然のことだろうに、なぜだか秘密を聞いてしまったような気がして、俺は視線を周囲にさまよわせた。 そんな状態の相崎貴史がなぜ進級できたのかが気になったが、わざわざたずねるのもなんだか憚られるような気がする。 「まあ、そんなわけで自己紹介のトップバッターはいっちゃんですから。なんかネタしなよ」 からかうように言う裕介に背中をたたかれ、俺は憂鬱な自己紹介が待ち受けていることを思い出し、心の中で頭を抱えた。 [次へ#] [戻る] |