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別扱い(剣城)



鼻歌を歌いながら冷やしておいたタネを切り分ける。断面はちゃんとチェッカーとうずまき模様になっていた。後はこれを焼くだけだ。

「なんだかとても楽しそうね。」

「はい!楽しいですよ。」

そう言いながら台所に秋さんが入ってきた。サッカー部にあげるハロウィンのクッキーを作るのに、木枯らし荘の台所を貸してもらっているのだ。秋さんはよくお菓子を作るから、私の家より道具や材料が揃っているし、作り方にも詳しい。

「余ったタネ冷蔵庫に入れておいたんで良かったら焼いて食べてください。」

「ありがとう。みんなもきっと喜ぶわ。」

「美味しいかわからないですけど…。」

「大丈夫。美味しく出来てるよ!」

笑顔で秋さんにそう言われると、何だかちょっと自信がついた。さっきオーブンに入れたクッキーが焼けてきたのかいい匂いがする。その匂いを嗅ぎつけたのか今度は松風くんが台所へ入ってきた。

「いい匂い!なまえが作ったの?」

「うん、そうだよ。サッカー部のみんなに明日あげるから、今は食べちゃダメ。」

「えー、残念。」

「1日の辛抱よ天馬。」

くすくす笑いながら秋さんが言うと納得したように松風くんは頷いた。あとみんなには内緒だよとくぎを差したところで天板にクッキーを並べる手を止めた。

「そういえば、剣城くんって甘いもの好きなのかな。」

「剣城かぁ。どうだろ、甘いもの食べてるの見たことはないけど…。俺聞いてこようか?」

「うーん剣城くん鋭いからバレそうだなぁ。」

かと言って渡してから甘いものは好きじゃなかっただったら嫌だ。バレるの覚悟で聞こうかと悩む。

「あ!剣城の兄さんに聞くのはどうかな?」

「なるほど…。」

剣城くんのお兄さんとは一応面識がある。一度剣城くんを探して病院まで行ったことがあるのだ。

「あとでラッピングの材料買いに行こうと思ってたし、病院行って聞いてみるね。」

「でも俺も知ってるんだし、剣城にバレてもいいんじゃない?」

たしかに松風くんの言うとおり、そんなに必死になって隠すことでもない。

「でもどうしても、剣城くんを驚かせて喜んでもらいたいんだ。」



一度会ったことはあるけれど、とても緊張する。この前は剣城くんがいたけれど今度は私一人なのだ。私のこと覚えてなかったらどうしようと不安に思いながらドアを開く。

「こんにちは。あ、あの私のこと覚えてますか?」

剣城くんのお兄さんに挨拶すると、少し驚いたような顔をして本を閉じた。

「覚えてるよ。マネージャーのなまえちゃんだよね?」

「はい、そうです。」

「どうぞ、そこの席に座って。」

剣城くんのお兄さんはいつもツンツンしてる剣城くんとは対照的に常に穏やかな表情だった。剣城くんが稀に見せる優しい顔とそっくりだ。たわいない話をしながらいつ切り出そうか迷っているとお兄さんの方から話をふってきてくれた。

「京介のことで来てくれたのかな?」

「はい。剣城くんって甘いもの嫌いですか?」

「ううん。京介は甘いもの好きだよ。人前では食べてないかもしれないけどね。」

お兄さんが微笑みながら言うのを聞いて良かったと安堵する。

「良かったです。ごめんなさいこんなことで来てしまって。」

「いいよ。京介のためにわざわざ聞きにきてくれてありがとうね。」

「こちらこそありがとうございます。これ良かったらどうぞ。」

カバンからさっき焼いたクッキーを取り出す。秋さんにもらった袋でラッピングしてある。

「ありがとうなまえちゃん。きっとこれ京介も喜ぶよ。」

さすが剣城くんのお兄さんだ。言わなくてもクッキーをあげるとわかったらしい。もう一度お礼を言って私は病室を後にした。



翌日、部活が終わってからクッキーを渡すと先輩たちもみんな喜んでくれた。松風くんは「昨日から楽しみにしてたんだ!」って人一倍喜んでいた。だけど肝心の剣城くんがいない。慌てて部室から飛び出すと既に着替えて帰ろうとしている剣城くんを見つけた。

「剣城くん!」

大声で呼びかけると剣城くんは振り返って立ち止まった。走ったことと先輩たちに渡すときとはまた違う緊張で胸がどきどきする。

「今日ハロウィンだから、これ!」

ずいっとラッピングしたクッキーを差し出す。剣城くんはそれを見つめると自分の手に取った。

「ありがとな。」

その時の剣城くんの表情はお兄さんとそっくりだった。



後日剣城くんは「この前のお返し。」とキャラメルをくれた。私の一番好きなお菓子だった。そのことを伝えると一言「知ってる。」と呟いて去っていってしまった。葵ちゃんもお返しを貰っていたけどキャラメルじゃなくて飴だった。きっと剣城くんもわざわざ聞いてくれたのかなぁとお兄さんの笑顔が思い浮かんだ。





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