[携帯モード] [URL送信]
今まで−あの日まで(トウヤ)



ねぇきっと俺たちは今日ここで出会う運命だったんじゃない?
機嫌良く鼻歌を歌っている君にそう呟くと驚いたような顔でこちらを見る。どうしたのいきなりそんな、みたいなことを言っていた気がする。だってまるで今までずっと一緒にいたみたいに、俺は君の考えてることがわかったし、君も俺の考えてることをわかってた。バトルサブウェイで今まで組んだ誰とより、楽しかった。「俺君のこと好きだ。」そう伝えたあとホームに入ってくる。その風が、いつもは生温く不快だったのにその時は何故か心地良かった。


「えっと、今日はマルチ?それともスーパーマルチ?」

あの運命の出会いから3回目のデート。のはずだけど今までの2回もバトルサブウェイ。もはやノボリとクダリがつきものだ。負けたことはないけど。なまえはどうも2人になるのが恥ずかしいようで、遊園地に行こうと言ったものなら固まってしまう。待ち合わせはいつもギアステーション。バトルサブウェイも楽しくないわけじゃないけどそれっぽいとこに行きたいし何より2人ぼっちに慣れてほしい。

「今日はこっちだから」

なまえの手を引いて更に地下へと続く階段を駆け下りる。スーパーマルチの隣の地下鉄に駆け込む。「お客様、駆け込み乗車は」注意する駅員の声は閉まった扉に遮られた。いきなり走ったせいかなまえがが息を切らしていたからそのまま流れで席に座った。

「これってカナワタウン、行き?」

やっと息を整えたなまえはきょろきょろと車両内を見回す。

「うんそう」

だから乗って早々バトルはないし車両から車両を渡り歩くこともない。普段僕もなまえもあまり縁のない座席に座って目的地に着くのを待つ、ただの地下鉄だ。平日だからか車両内はがらがら、前に行ったときは週末で、結構な人数が乗っていた。あぁこれこそ俺が望んだ。

「カナワに行ったことある?」

「ううん、初めて行く。」

いつもより会話が短い。といってもいつもの会話はさっきあそこで交代したのがよかっただのあそこであの技は辛かっただのバトルの話ばかりだ。

「確かにあそこは週末ならまだしもいつもは何もないからな」

「そうなんだ」

会話のキャッチボールどころか壁当てみたいだ。でもなまえが冷たく返してる訳ではないのはわかってる。さっきからずっと喉を押さえている。彼女の緊張した時の癖だ。それに徐々に慣れてくれればいいと思ってるし。がたんと地下鉄が到着に揺れる。
「着いた」
なまえに手を差し出す。彼女はその手をじっと見つめた後そっと手を重ねた。
風が冷たい。車両から降りると、なまえが不思議そうに辺りを見回す。

「地下鉄なのに、ホームが地下じゃないんだね。」
「うん、確かに」

ここに来たのは初めてじゃないけど今言われるまで気づかなかった。というか気にしてなかったんだろう。 階段を上がると橋の下にトレインが見える。

「あれは?」

なまえの呟きに近くにいた少女が答えた。

「あのトレインはもう動いていないの。今はカナワで休んでるの。」

そして少女は笛を吹き始めた。乾いた空に音色が響き渡る。普段音楽を聴かない俺にもその穏やかな音は染み渡る。

「トレインへの、子守唄みたいだね」

そう言って微笑んだなまえに何か熱くなる。ぎゅっと手を強く握れば弱く握り返された。もっと触れたい話したい一緒にいたい。2人の時間はまだまだこれから。





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!