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少年と少女、もうひとつの結末(佐久間)


*死ネタ




息を切らせて病院へと入る。四国で行方不明になって二週間。次郎は命に関わるほどの重傷を負って帰ってきた。この前まで入院していて、私はお見舞いに来ていて、ある日突然いなくなって、また私はお見舞いに来ていて。全く訳が分からない。もはや私は病院の常連だ。階段を登りきった正面にある病室の扉は空いていて、誰か先に来ているのかなと覗き込む。でもそこには知っている人は誰もいなくて、それどころか人は一人もいない。みんな帰ったばっかりなのかな、とベッドの周りのカーテンを開けた。

「…え?」

ベッドの上には布団も枕も何もない。横に据え付けられたテーブルの上にも見舞いの品も何も載っていない。血管に氷が混じったみたいに体中が冷たくなる。嘘だ。そんな、有り得ない。急いで廊下に出てネームプレートを見る。「そっか、」

そこに名前は書かれていなかった。ここは次郎の前の病室。今次郎がここにいるわけじゃない。ほぅ、とため息をつく。何やってんだ私は、一人で悲劇のヒロインごっこかよと自分自身を嘲りながら目元をこする。実際今泣きそうだったのだ。一人で間違えて一人で泣きそうになるなんて馬鹿みたい、と下の階に降りながらまた自分を罵倒する。そうだよ、いつもの流れで受付で病室を聞かずにこの前までの癖で前の病室に行ってしまったんだ。受付のおねーさんももはや顔見知りだ、とか言ったけど今日はいつもとは違うおねーさんだった。
「あの、佐久間次郎の病室って、」

「303号室に入院していた佐久間次郎さん、ですか?」

「はい」

「佐久間次郎さんは、3日前にお亡くなりになっていますが、」

「え……ッ」
何 を 言 っ て る ん だ ?そう言おうとした瞬間頭が割れるように痛む。ざかざか、とノイズ混じりの映像が勝手に脳内再生される。私の周りには帝国のみんながいて、ベッドを囲んでいる。松葉杖をついて呆然としている源田君。ゴーグルを床に叩きつける鬼道君。扉の影で、何か呟いているモヒカンの少年。泣いている一年生たち。私が、ベッドに一歩近づくとカーテンで隠れていた顔が見えた。

「…なまえ!」誰かに肩を揺すられ映像はノイズに飲み尽くされて消えた。自分の姿を見れば、制服姿。いつもは着ないブレザーまで着ている。一体いつの間に、私は騙してたんだろう。

家出少年と迷子少女より





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