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二度と回らない地球(N)





私との勝負に敗れたゲーチスはチェレンとアデクさんに連れられ部屋の外へ出て行った。一瞬かち合った瞳は力のない悲しげなどこかで見たことのある色だった。ゲーチスがNをバケモノと言ったこと。Nの理想は現実にはならなかったこと。私が今ここにいなくて、例えば家でテレビの画面ごしにこの事態を見ていたらきっとゲーチスはあんなこと言わなかっただろうしNは理想の世界を実現させていただろう。私はあなた達を倒していいことあったのかなって浮かんだ疑問をすぐにかき消した。「なまえ、話したいことがある。こっちへ来て」俯いていた顔をあげればいつものように微笑んでいるNがいる。数歩後をついていく。さっき捕まえたばかりのレシラムのボールがかすかに揺れた。立ち止まったNと見つめ合う。相変わらずその瞳に光はなかった。


「ボクは君に逢った時、とても驚いたんだ。だって君のポケモンは君のことが<好きだ>って言ったから。そんなポケモンと逢うのは初めてだった」あの時の事は私も覚えている。パートナーが好きと言ってくれた事が嬉しくて舞い上がっていた。Nと初めて逢ったのもあの時だったんだよな。「本当にボクはポケモンのことしか、いやそのポケモンのことすら解っていなかったんだ。それを教えてくれたのは君と君のポケモンだった」自分を皮肉るように早口で言い切った声はなんだか胸をちくちく刺すように痛かった。何か言おうとしたけど何を言えばいいのかわからないし、今は何を言っても意味のあることにはならない気がした。


Nがボールからゼクロムを出す。その赤い瞳に憐憫の情を浮かべていた。きっとNが優しいから、ゼクロムはNの許を去っていかないんだろう。カタカタとレシラムのボールが揺れる。そっとボールに触れる。あなたは私に何を伝えたいの?どうして私を選んでくれたの?あの青い瞳は何を思って私を見つめているんだろう。


「なまえ、キミはいつだか夢があると言った」静かにでもはっきりと響いた声に再び見つめ合う。暗く濁っていた筈の瞳に僅かに光が射していた。今まで見たことのある瞳じゃない「その夢…叶えろ!」Nはふわりと笑うとゼクロムの背に飛び乗った。


Nはやっぱり初めて会った頃とは違う目をしていた。「それじゃ…」その時、私でも次の言葉がわかってしまった。心臓が不規則に脈打つ。そんな、そんなラストを私は望んでない。そんな言葉を望んであなたを阻止したんじゃない。だから「サヨナラ!」そんな言葉を残していったら、私の夢は叶えられないのに。






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