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これほどにも罪深い接吻(ベルフェゴール)


人殺しは、好きじゃない。目の前で無邪気に笑う彼にそう伝えたらどうなるだろう。ならば人は殺さない、などとはきっと言わないだろうな。

「あれ、ナイフ無いや。ベルのナイフ貸してくれない?」

「じょーだん?オレのナイフはケーキ切るナイフじゃないんだけど」

「ホール手掴みで食べるのもなぁ」

だいたいどうして台所にナイフもフォークもないのだろう。どうやってこのケーキ食べる気だったのか、まさか指でつつくとかそんな訳ないよねと切るもの探している私を見かねてベルがはぁと大げさにため息を吐く。

「しょーがない、食いしん坊の姫の為にコレあげるよ」

すっと差し出されたそれはワイヤーだった。コレだってケーキ切るものじゃないけど、ありがとうと言ってケーキを切りにかかる。暗闇できらきら輝くワイヤーはすぐに生クリームまみれになって、八分の一カットになったケーキを手掴みで頬張る。

「結局手掴みじゃん」

「ベルも食べる?」

「いらない」

退屈そうに机の上のワイヤーを取り上げて指を滑らせると真っ白な生クリームだけがベルの指にはついている。私がやったら指が切れて血が混ざりそうだ。

「なまえ、ほら」 

舐めろ、とクリームにまみれた指を突き出される。ケーキで汚れた唇を拭きお望み通り指をくわえて、丹念にクリームを舌で舐めとる。

「うわ、えっろい」

私の唾液で濡れた指をぺろりと舐めると私を抱き寄せ口づける。口内を隅々まで舐め回されてびりりと頭が痺れていく、力が抜けていく。あ、やばい。がちゃんと私の背後の扉が開いた。ひゅっと何かが飛ぶ音がして人が倒れる音、金属が床に散らばる音が部屋に響いた。

「愚民の癖に、いいところジャマしてくれちゃって」

ベルが私の脇をすり抜け一歩前へ出る。小さく唸る声も次の瞬間には聞こえなくなった。視線を下にやると新しく広がる血だまりと散らばったフォークが見えた。

「これで全員。任務完了」

なるべく平静を保って、いつものように声を出す。

「じゃ、姫は王子とさっきの続きしよ」

手にしていたナイフを放り投げてベルが私を抱き締める。思わずさっきの思いが口に出そうになる。

「ねえベル、人殺しは好き?」

「もちろん、だってオレもなまえも人殺しじゃん」

でしょ?とベルは笑った。ベルは人を嘲り人を罵倒するこの口で私に甘い言葉を囁き私に口づける。人を何とも思わないその目で私を想って見つめてくれる。

「なまえは?」

「私は、

ベルが好き」

子どもの名前が書かれたバースデーケーキから目を背け、私はベルに口づけた。


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