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「……マジかよ……」

自身の身体を見ながら吐き出したのはため息と、どんよりとした声だった。


慶介に手を引かれて逃げ込んだのはプールに備え付けてある、更衣室だった。

「うげ……マジでびしょ濡れ」

「天気予報で天気が変わりやすいとは言ってましたけど、こんなに急にくるとは思いませんでしたね」

「なかなか悲惨だな、どうすっかあ……」

髪も制服も濡れてないところなんてありません、ってなぐらいにびしょ濡れの身体をお互いに見り、二人で苦笑いがこぼした。


「ひどい雨ですね」

慶介のぽつりと言った声に俺も窓の外へ視線を動かす。

雨はよりいっそ激しさを増して、大粒の雫が止め処なく降り注いでいた。


教室へ戻れば体育用のジャージくらいはあるかもしれないと思ったが……。

「これじゃあ、校舎まで戻るのは無謀か」

グラウンドを挟んである校舎まで走ったとしても、余計に濡れるだけだ。

「とりあえず、ここで様子を見ながら雨宿りしましょう」

「そうだな、仕方ないな」

ここは諦めるしかないと判断したものの、水分を吸い込んでべったりと身体にまとわりつく制服は、かなり気持ち悪い。

げんなりとしながら胸に貼りついたシャツを指先で剥がしていると、慶介から声がかかる。

「先輩、制服着たままで大丈夫ですか?」

そちらに視線を移して――。

「んー?俺は、い……ぃ……」


俺は視線を奪われた。

言葉さえ続かなかった。


いつもガキくさく俺に笑ってみせる慶介はそこにはいなかった。

骨張った長い指先で濡れた髪をかき上げるその仕草も、

その下の細めた目で外を眺める目線も。

濡れた唇も、滴る雫も、

はだけさせたシャツの間から覗く少し焼けた胸も、

貼り付いたシャツから透けて見える肌も。


すべてが色っぽくて、どこか艶っぽくて。

――俺は、慶介から目が離せなくなった。

そこにいる慶介は、大人の男の色気を漂わせていた。

こんな慶介、知らない……。

思考の全てを奪われた俺は、吸い込まれるように慶介に手を伸ばしていた。


雫が滴る髪。

筋のはっきりした首。

骨ばった鎖骨。

意外に固い胸。



ぼんやりとした意識の中で、ふいに頭の上から微かに笑う息が降りかかる。

そう感じた直後。


「それは、誘ってるんですか?」

慶介の挑発的な笑い声に、はっとさせられた。

俺、何してんだよ……っ!?

「ち、違――っ!!」

途端に顔が一気に熱くなっていく。


直ぐさま、慶介の身体に滑らせていた指を離そうとしたが、

「逃がしませんよ」

怖いくらいににっこりと微笑む慶介の手に、それはあっさりと捕まってしまっていた。



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