商い物 始まります 両親の突然の失踪に手を伸ばしてくれたのは、血の繋がりも何もない孤児院の院長先生だった。 柔らかい笑顔でいつも、子供のことを見ていてそれがとても嬉しかったんだ。 孤児院には大体15〜20人くらいがいて、入れ替わり立ち替わりに新しい【家族】の元へ旅立って行く。 ほとんどは戻ってこないし、来たとしても今とても幸せだよ、という報告をしに来るくらいだ。 そんな中でも俺は1番年上で、また捨てられるかもしれない、という疑いの心があるのと、それよりも院で院長先生の子供のままでいたいのとで、出会う【家族】たちから逃げ続けた。 そんな事していたら、俺はいつの間にか院での生活が10年目に入り、院長先生ももう誰かの家族ではなく、院長先生の本当の子供として受け入れてくれた。 そして、院長先生の本当の子供になって3年目、16歳になった日に院長先生に土下座された。 それだけでも衝撃的だったのに、内容はもっと衝撃的だった。 色々と端折ってまとめて、ポイッと放って言うと、嫁に行けとの事だ。 …そういうわけで、今日、人生16年と1日目にして、鷹司家の嫁に行きます。 さて…さてさて、連れてこられた所はどう考えても俺には無縁であり、場違いな立派な日本家屋の広い屋敷だった。 高級旅館のようなものだ、と言い聞かせて案内の女中さんに着いて行くと、すでに5人の同い年くらいの男(仮)がいる部屋に通された。 …うん、同じモノが付いてる男、だよな? 5人とも中性的か女顔で、美人とはこの人のことか!?という顔や、チワワのような可愛らしい顔のやつらばかりだ。 逆に俺は浮いてる…かなり浮いてる。 一般的な普通の男の顔してる…はず。 そこそこ女の子から告白されたから酷い顔ではないけど、まぁ、普通の顔なんだよ。 男は中身だ!!とは豪語しないが、明らか5人より容姿が劣っているわけで…。 お前なんぞは場違いだ、という眼差しと、ひそひそ声がちょっとうるさいかなぁ?ってイラッとした。 まぁでも、ここに来たのは院長先生の頼みなわけだし、他の人のことは結構どうでも良かったので、早々に意識から消し去った。 そもそも、だ。 そもそも何で、男の俺が嫁ぐ羽目になったかというとだ。 ここ鷹司家は院長先生の遠縁で、院長先生の家は代々鷹司を守り支える六家の1つらしい。 んで、鷹司家っていうのは、日本を裏から動かす家の一つで、すっごい昔にその力を手に入れるために鬼と婚姻関係を結んだのだと。 いや、どんなおとぎ話だよ、って思ったよ…。 まぁ、なんかその力とやらを手に入れたのは良かったんだけど、その代償として【鬼憑き】と呼ばれる子供が時々血縁筋に生まれるのだそうだ。 【鬼憑き】は、残酷で人を喰らう人の形をした鬼なんだけど、生きている間は家が栄えるために一種、神様のように扱っているという。 で、神様だから供物を捧げなければならない。 【鬼憑き】の年齢に適した供物を年に1回、必ず6つ用意するのが慣わしなのだとか。 それで、今年その【鬼憑き】様とやらは18歳になるようで、この歳の供物は伴侶、つまりお嫁さんなんだと。 ところが、【鬼憑き】はその残虐さ故に種を残すことを禁じられている。 だから、男が嫁ぐのだ。 さてさて、院長先生は六家では1番下の位だというが、仕来りは仕来り。 供物を捧げなければならないが、当主である院長先生の兄は自分の息子を嫁がせることを良しとせず、孤児で養子である俺の存在に目をつけ、当主命令でとんとん拍子に嫁にきめられてしまったのだ。 おのれ…当主め…。 「皆様お揃いでございますね。」 作法の先生だ、と思うくらいにピシッと着物を着た初老の女性が部屋に登場しなさった。 「では、これより皆様には鷹司家の人神であられる、宵月様の良き伴侶となられますよう、嫁前の儀を一月受けていただきます。よく励みますようお頼み申し上げます。」 あー…うん。 どうやらこれから1ヶ月間の花嫁修業が始まるようだ。 まぁ、家事全般得意だし辛くないだろう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |