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小説
Bath Time (ブレギル:R18)

Bath Time

















 暗闇の中、遠ざかる蹄の音をぼんやりと聞きながら、ブレイクは無意識のうちに溜息を吐いていた。

 相変わらず、掴み所がないと言うか話を逸らすのが巧いというか、とにかく気に喰わない以外の何者でもない存在。

 極力顔を合わせたくないと言うのが本音ではあるものの、そうも言っていられないのが現実だ。

 己の左目は漸く再会することのできたご主人様を前に使いものにならない。こうなることは判りきっていたことではあるものの、溝鼠を前にソレでは困ってしまう。

 グリムの一件は、大方自分の考えに間違いはないだろう。オズを盾にあんな形で証拠を消されてしまえば、尻尾を掴むのは難しい。



「……まったく、厄介デスね…」



 本当にどうしようもない。

 それでも、彼にとって何より大切なカードは今のところブレイクの手の内だ。



「『血の絆』ネ……」



 何が遭ろうと自分達兄弟の絆が切れることはないと言わんばかりのヴィンセントの言動を思い出し、ブレイクは失笑する。

 だが、その言葉が強ち間違いではないことを、ブレイクも理解はしていた。繋がれている手は、どちらか一方が手を離したとしても、片方が掴み続けている限り、離れることはない。

 あの男が最愛の兄の手を離すわけがないのだ。

 彼の思惑が一体何処にあるかなど、ブレイクには判らない。だが、放置など出来る訳もない。

 パンドラの制服を身に纏っていても感じる底冷えに、ブレイクは漸く踵を返した。



























 すっかり静まり返った廊下をのんびりとした足取りで歩いていけば、パタリと扉が閉まる音が耳に届き、ブレイクは背後を振り返る。

 所々に灯された蝋燭の明かりに映し出された見慣れた漆黒の癖毛に、ブレイクは口角を引き上げた。



「……お疲れのようダネ…?」



 光源だけのせいではないだろう、あまり良いとは言えない顔色のギルバートが、弾かれたように顔を上げる。



「…ブレイク…」



 安堵とも呆れとも取れるギルバートの溜息に、ブレイクは僅かに目を細めた。

 全く、残念なくらい可愛気というものがなくなってくれている。まぁ、半分くらいは自分の責任ではある自覚はあるものの、この状況でその態度は、ブレイクの嗜虐心を十分に刺激してくれた。



「オズ君とアリス君は、休まれたようデスね……」



 ギルバートが出てきた部屋はこの館に於いて彼に宛がわれている部屋ではない。



「…あぁ…」



 自分の言葉に主人の事を思い出したのだろう、微かに緩むギルバートの表情に、ブレイクは昏い感情が沸き上がってくることを自覚していた。

 本当に判りきっていたことだが、目の当たりにすればあまり楽しいことではない。

 これほどまでの兄の傾倒をあの弟はどう見ているのか、不意にブレイクの脳裏に浮かんだ疑問は、すぐに霧散した。

 考えたところでどうしようもない。

 あの弟のことだ、自分の兄の目的に気づいていない訳がないのだ。



「しっかり暖まったのデスか…?まだ、冷えてマスヨ」



 言いながらすっかり雨のせいで普段より癖が強くでてしまっているギルバートの黒髪に指を絡めるようにしてブレイクが頬へと指先を触れさせれば、不快そうに眉が顰められる。

 真実触れられるのが嫌なのか、それとも冷えきっている事実を知られたくはないのか、どちらもだろうと判断すると、ブレイクは酷く楽しげに目を細めギルバートの手首を掴んだ。



「ブレイク!?」

「しー。大事な大事なご主人様が、起きちゃいマスヨ」



 ビクリと大袈裟に肩を震わせるギルバートの耳元に囁きを落とすと、瞬間言葉を飲む彼の手を引きブレイクは彼の部屋へと向かう。

 戸惑いながらも自分の後を素直についてくるギルバートに、ブレイクは口角を引き上げた。

























 まるで放り込むようにギルバートをソファへと座らせ、ブレイクは室内に設えてあるバスルームへと向かう。そんなブレイクの様子に何かを言おうとギルバートは口を開いてはみたものの、その口から言葉が出ることはなかった。

 半ば鼻歌交じりでブレイクはバスタブに湯を溜め始めると、そのまま踵を返しギルバートの許へと戻る。



「…ブレイク…?」

「手っとり早く暖まって来なサイ」



 風邪をひいてご主人様に心配掛けるわけにいかないだろうと、先にギルバートの逃げ道を塞ぎ、ブレイクはにっこりと微笑んだ。



「…何を、考えている……?」



 思い切り胡散臭そうな表情を自分に向けてくるギルバートに、ブレイクはピクリと口端を震わせる。



「全く、本当に失礼な人になりマシタネ……」



 それだけ疑われるような事をブレイクがしてきたのだと言うことなのだが、人の善意を疑うなんて性根が悪いと言わんばかりにブレイクが眉を顰めてみせれば、



「……悪かった…」



 バツが悪そうな表情で、それでも一応の謝罪を口にするギルバートに、ブレイクは彼に知られぬように僅かに目を細めた。

 根本のところでギルバートは変わらない。

 幼い頃のままと言って良い素直さを隠すようにブレイクから視線を逸らす彼をバスルームに促せば、渋々と言った風に、ギルバートは立ち上がった。

 パタリと音を立ててバスルームの扉が閉じられるのを確認すると、ブレイクは身に纏っていた重々しい制服を脱ぎ捨て、頃合いを見てバスルームへと向かう。



「……!?ブレイク?」

「お流し致しマスヨ?ギルバート様」



 無防備に浸かっていたギルバートが突然現れたブレイクを前に、バシャリと音を立ててバスタブから身を起こした。

 基本的にバスを使用する際は、使用人を連れて入るのが一般的だ。シャボン等を使用した後の掛け湯をする為ではあるが、自分の身の回りに使用人を置くことを良しとしないギルバートは、誰かを連れてバスを使用することは殆どないのだ。それを判っていてのブレイクの言葉に、ギルバートの双眸に険が篭もる。



「……なんの、つもりだ……」

「言葉通りなんですけどネェ……」



 素肌を晒した状態で睨まれても恐ろしさなど半減以下だ。羞恥に目元を朱に染めるギルバートの様子に、ブレイクは殊更人の良い笑みを浮かべると、ブレイクの視線を避けるようにバスの中で身を縮めるギルバートの傍らへと立つ。



「ちゃあんと、暖まりましたカ…?」



 言いながらブレイクは逃げ場がなくなり俯いてしまっているギルバートの顎を取ると、漸く色が戻ってきた唇へと指を這わせた。

 全く色々面倒臭いばかりだと、驚いたように目を見開いて自分を見つめるギルバートの金を視界に映しながら、ブレイクはそのまま己の唇をギルバートのソレへと重ねていった。

 湿度のせいだろういつもよりしっとりした唇の感触にブレイクは重ねたままの口端を僅かに持ち上げながら、突然のことに対処ができなくなっているギルバートの薄く開いた口内へと舌を差し入れる。瞬間、ピクリとギルバートの肩が小さく震えるが、ブレイクは気にすることもなく奥に縮こまってしまっているギルバートの舌を引き出すように絡め取った。

 普段の熱さを感じないギルバートの口内にブレイクは眉を潜めると、縁に乗り上げるだけだった自身の身体を濡れるのも構わず、ギルバートの身体に乗り上げるような形でバスタブへと身を滑らせる。



「……っ!?」



 自身の身体に掛かる負荷に、ギルバートの瞳が開かれるのと同時に、ブレイクはギルバートの唇を解放するとそのまま指先を無防備な胸元へと滑らせていった。



「っブレッッ」

「シー。手っとり早く身体暖めちゃいまショウネ…」



 にっこりと笑みを浮かべるブレイクにどう言う意味だと問い質す間もなくギルバートは再び唇を塞がれてしまう。



「…んっ……っふ……ぅ……」



 唇が重なると同時に、ソレは直ぐに深いモノへと変わっていた。なけなしの抵抗とばかりにギルバートの手がブレイクのシャツを掴むが、震える指先の存在をブレイクに知らせるだけで、何の意味も成さない。

 息苦しさに首を横に振るギルバートの気づかぬ振りで、ブレイクは安定の悪いギルバートの身体を自分の膝の上に引き寄せた。浮力のおかげでギルバートの身体は簡単にブレイクの膝の上に納まる。



「…っは……ブレ…イク……」



 長いキスから解放され、ギルバートが非難を含んだ声音でブレイクを呼ぶものの、湯の中にいる上、酷く濃厚なキスで既に思考回路は働かないらしく、ぼんやりとした視線を自分に向けるギルバートの耳許へとブレイクがキスを落とせば、ピクリとギルバートの肩口が跳ね上がった。

 あまりに敏感なギルバートに、ブレイクの口角が引き上がる。



「…しかっり、掴まっていて下サイね……」



 言って、ギルバートの腕を自分の背に廻させると、ブレイクはピンクに染まった項から胸元へとキスの唇を落としていった。



「あっっ……」



 胸の突起を含んだ瞬間、ブレイクの頭上から甘やかな声が耳に届く。軽く歯を立てただけで硬度を増すソレを舌先で弄くり、もう片方は指を這わせていけば震えるギルバートの指先は、いつの間にかブレイクの髪の毛に移っていた。

 弧を描くように反り返るギルバートの華奢な肢体を片手で支え、ブレイクは愛撫の手を緩める事無くギルバートの身体を侵食していく。

 普段よりも感じやすくなっているように感じるギルバートの肢体に、ブレイクの嗜虐心はますます刺激されていた。

 触れる事もなく反応を始めているギルバート自身がブレイクの腹にその存在を主張し始める。



「…ギルバート君……」



 ギルバートの白い肌に、所有印を散々刻みつけた後、ブレイクは伸び上がるようにしてギルバートの唇に触れるだけのキスを送った。

 それに反応するようにギルバートの金がぼんやりと自分を見つめるのに、ブレイクは酷く嬉しげな笑みを浮かべると、そのままギルバートの身体を反転させる。

 滑らかな背に唇を滑らせながら、双丘へと手を掛ければ、



「…濡れて…溢れてマスね……」



 広げられた後孔から溢れ出す湯に、ブレイクは口角を引き上げた。



「やめっ……」



 耳許へと落とされた言葉に、瞬間、ビクリとギルバートの身体が震える。そんな可愛らしい反応にブレイクは益々笑みを深めると、後孔へと指を挿しいれていった。



「…やっ…あっ…つい……」



 緩く広げた先から、湯が入り込んでいく感覚に、ギルバートは喘ぐ。体内に直接入り込む熱に、ギルバートは縋りつくように縁へと爪を立てていた。



「…あっ……あぁ…ッ……」



 入り込む湯に、ギルバートの後孔は簡単にブレイクの指を飲み込んでいく。いつの間にか増やされた指が、ギルバートの蕾を押し広げていった。



「んっ……もッ……ブレ……ッッ……」



 的確に、感じやすい部分を攻めてくるブレイクに、いつだって音を上げるのはギルバートの方だ。



「…いつもより、早いんじゃないんデスカ……?」



 普段からは想像がつかない情欲に掠れたブレイクの声が、ギルバートの耳許に落とされる。その声音にギルバートの肩が震えた。



「…んっ……そんな事………」



 顔を朱に染めるギルバートの唇に己のソレを軽く触れさせ、ブレイクはギルバートの体内から指を引き抜く。



「…ッ…」



 引き止めるように動く粘膜にブレイクは口角を引き上げながら、息を飲むギルバートの項へと軽く歯を立てた。



「…ギルバート……」



 無理な体勢でのキスに、眉を顰めるギルバートの名を呼び、ブレイクはしっかりと勃ち上がった自身を、ギルバートの身体を埋めていく。



「あっ……ッふぅ……んっっ……」



 湯よりも熱く硬度のあるソレに、ギルバートは瞬間身を固めた。

 どれほど身体を重ねようが、この瞬間は慣れる事がない。

 力を入れすぎて更に白くなってしまった縁を掴むギルバートの手に己のソレを重ねながら、ブレイクはギルバートの腰を僅かに上げさせた。

 熱に犯されていく感覚に、ギルバートは唇を噛み締め、息を詰める事で耐える。

 そんなギルバートの唇へとブレイクは指を這わせていった。



「…ギルバート君、息を吐いて下サイ……」



 掠れた声をギルバートの耳許に落としながら、指の腹で唇を割り、歯列を撫でていけば、



「んっ…………」



 ゆるゆると撫ぜられていく感触に、硬く噛み締められていたギルバートの歯から力が抜けていく。僅かに緩んだ隙を逃す事無くブレイクはギルバートの口内へと指先を入れた。

 

「!…っふ……ッぁ……」



 普段とは違う場所での行為に、お互い酷く高揚しているのが判る。

 自身に絡みついてくるギルバートの内壁の熱さに、ブレイクはおかしくなりそうだった。

 指をギルバートの口内に含ませたまま、ブレイクはゆっくりとギルバートの腰を揺らす。



「っは……んっ……」



 身を穿つ痛みと共に、それだけではないモノがギルバートの背筋を駆け上った。

 何処もかしこも熱くて、何も考えられなくなってしまう。



「あっ……あぁ…ッ…んっ……」



 どうにか体内に収められた自身が馴染んで来た所で、一気に腰を持ち上げ、ブレイクは腰をグラインドさせていった。



「…ギルバート…」

 いつの間にか舌が絡められていたギルバートの口内から指を引き抜く。ソレを追い縋るように伸ばされた舌に、ブレイクは己のソレを絡めた。

 まるでキャンディーを舐めるように吸い付いてくるギルバートの口腔を侵しながら、ブレイクはギルバートを攻め立てていく。



「んっ…ひぁっっ……んっっ……」



 激しく下肢を抉られて、キスの唇が離れると同時にギルバートは縁を掴む指に更なる力を入れていた。

 震える腰に、ギルバートの限界が近い事をブレイクに知らせる。



「…あっ……んあっ……イク……ッ」



 喘ぎ声と共に名前を呼ばれ、ブレイクは一際深くギルバートを突き上げた。



「っっ…!」



 最奥に感じる熱に、ギルバート自身が弾ける。

 それと同時に、ブレイクもギルバートの再奥へと欲望を吐き出した。



「…ッハ……ぁ……」



 そのまま崩れるようにギルバートの身体が沈み込む。

 それを辛うじて支えると、ギルバートの中へと自身を収めたまま、すっかり力の抜けたギルバートをブレイクは腕の中に収めた。























 バスタブの縁に縋りつくような形で意識を飛ばしてしまっているギルバートの髪に、己の指を絡めながらブレイクはこっそり溜息を吐く。冷えていた身体を暖めるどころか寧ろ逆上せさせてしまった事実に半ば頭を抱えながら、漆黒の髪とのコントラストが淡い光源の許鮮やかな首筋へと、ブレイクはキスの唇を落とした。触れるだけではなく吸い上げれば鮮やかな朱の花が咲いた。



「……私も、まだまだ青いって事でショウネ……」



 認めたくはないことだが、何処までも追いつめてしまった結果であるギルバートの姿を目にすれば認めないわけにもいかない。

 ギルバートの主が戻ってきた今、彼の全てはあの運命の少年へと向けられることは判っている。それでも、断ち切れぬ執着心は何だと言うのだろう……?



「…好きですよ、ギルバート君…」



 その言葉を、最初に告げていたのならば何か変わっていたのだろうかと、ブレイクの脳裏に不意によぎった考えは、苦笑と共に消えていった。









FIN


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