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小説
Word(ジャクギル)

原作ネタバレあり。






Word










 視線の先に映る驚愕の表情で自分を見つめる存在にジャックは痛みを堪えるように、僅かに目を細めた。





 思わず口から出た失言に、ジャックは自嘲の笑みを浮かべることしかできない。自分の腕の中に崩れ落ちた身体は、記憶に残る彼とは全く違う。
 それでも、触れる癖のある黒髪は変わることはなく、ジャックの指に絡みついていた。

「ギルバート……」

 名を呼んで、未だ意識を失ったままの青年の頬へと指先を滑らせる。
 長い時を経て、待ち望んだ存在との邂逅に、あの時失ってしまったと思っていた存在までも見つけた衝撃を、ジャックは今でも忘れることはない。
 偶然なのか必然なのか判らない、予想外の邂逅。
 だが、運命的な何かを感じずにはいられなかった。
 記憶に残る彼の姿よりも成長したその姿は、一瞬の後ジャックの視界から消えていたのだ。

 堕とされた、運命の少年

 全ての歯車が動き出す。
 そうして再び彼に相見えた時には、少年は青年へと姿を変えていた。
 無邪気さは消え、憂いと初めて出会った時に纏っていた陰を再び装ったその姿は、ジャックの胸を痛めるものではあったものの、運命の少年を前に一途な視線を向ける姿に、僅かに胸を撫で下ろすこととなる。
 己を庇って倒れ伏した彼をそのままに、親友の許へ向かった後、二度と彼の姿を目にすることは出来なかったのだ。
 ずっと、後悔をしていた。
 あの時、手を離さなければ失う事はなかったのかもしれない……
 それでも、こうして運命の少年の従者として再会できたという事は、そう言う運命だったと言っても良いだろう。

『覚えてない……思い出したくない』

 絞り出すように発せられたギルバートの言葉。
 後者こそが本音だろう。
 ギルバートが苦しむ事を望むつもりはない。だが、それは彼に自分を思い出して貰えないと言うことと等しい事だ。
 今、オズに向けられている一途なまでの視線は、かつて自分にに向けられていたものだ。それが二度と自分に向けられない事が、酷く寂しく感じてしまう。
 躊躇いもなく向けられた銃口が、次の瞬間揺れていた事を思い出し、ジャックは思わず苦笑してしまっていた。
 マスターであるオズに害する存在は許さないと言ったギルバートの態度は従者として問題ないと言って良い。だが、まさか自分がその害する存在と認定されるとは思ってもみなかった。それでも、彼に自分を傷つけられる訳がないと、銃身に手を伸ばした事はあまり褒められた物ではないだろう。

「ギルバート……」

 未だ深い傷を抱えているかつての従者の名を呼んで、ジャックはその額へとキスを落としていた。
 もう二度と、こうして触れられることなど叶わないと思っていた、存在。
 ジャックの唇から零れ落ちた祝福を祈る言葉は、突然の強い風に流されていった……―――――――。





FIN


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あきゅろす。
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