SPECIAL!シリーズ
第4幕 特訓
能力をあまり使った事なく、実戦なんてもってのほか。
それでも、自分の身は自分で守らなくてはやっていけないということで、佐樹は訓練棟の1室で特訓をする事になっていた。
隊長と風花は調査に出かけてる為、相手をしてくれるのは怜だけとなっている。
コンクリート造りのほどよく広い部屋で佐樹と怜は向き合ってはいるが・・・・・
(よりによって第一印象最悪なこの人だなんて!)
「ぶぎゃぁっっ!!」
我ながらなんて情けない悲鳴なんだろうと思いながらも床に倒れる佐樹。
「これでも充分手加減してるけど?」
佐樹を馬鹿にした顔で平然と立っている怜。
(見下すなっっ)
そう叫びたいものの力の差は歴然、自分の無力さを感じ感情を抑える。
(A級のあんたからみたらへなちょこだって顔に書いてる!!)
「体だけで逃げようとするな。能力使えって言ってんだろ。」
「そんなの言われたって!!」
「植物の種いくつか持ってるだろ?全部使おうとするな。一つだけ使え。」
(いちいち偉そう!でも返す言葉がない!)
そう、佐樹は植物を操れるという事で、いくつか種を持たされてる。
いざってときの為に動かせるように。
ちなみに隊長、風花、怜は自力でそれぞれの能力のもとになるものを作り出せたり、呼び寄せたり出来る。
(う〜ん……レベルの違いを感じるなぁ。)
「おっや〜〜?ここには珍しい奴がいるじゃねぇか。女の子に乱暴な言い方しない方がいいんじゃねぇ?」
突如、張りつめた空気を壊す陽気な声が聞えてきた。
(・・・って誰?)
佐樹達より年上の男が出入り口に立っている。
耳より少し長めの茶色の髪、鍛え上げられた感じのがっしりとした体。一言でいえばマッチョ。
勇火と同じターコイズ色の制服を着崩した大きな男だ。
「克己(かつき)隊長……あんたこそ任務いいのかよ。」
(うわっ怜ってばタメグチ!)
「今は事件抱えてねぇからいいんだよ。勇火んとこの新人がどんな子か見にきたんだ。こんな可愛いお嬢さんとはねぇ」
(それってヤジ馬根性?悪い人じゃなさそうだよね?)
「俺は克己。雷の能力者で別チームの隊長をしてるんだ。勇火とは同期でな。よろしく、佐樹ちゃん」
「はい…ってどうして名前を?」
「勇火から聞いたぜ。植物操れるんだって?なんだか大変みてぇだな。」
(あらま。自己紹介しなくてもよさそうだね。)
がっしりとした克己の手と握手をかわす。
(さすがマッチョだわ。)
「こいつは勇火以外には態度悪ぃけど悪い奴じゃねぇんだ。でも、いじめられたら俺に言いなよ。なんならうちのチームに・・・ぶわっっ」
いきなり克巳の顔に水がぶつけられる。
(あ、怜の仕業ね。)
手には水で生成された拳銃が握られている。
佐樹はここに来てから能力で造形された物体を初めて見たが、怜の造形は特に完璧だと何
度見ても思ってしまう。
色以外は本物と変わらず迫力すら感じられる。
「余計なこと言うな。ついでにナンパするな。」
(うわ〜〜〜〜〜容赦ないなぁー・・・。)
「はいはい冗談だって。じゃ、またな。」
手を振って出て行く克己を呆然と見つめる佐樹と、呆れ顔の怜。
「邪魔が入ったな。そうだな、朝顔の種はあるか?」
「あるけど?」
「それ、天井まで伸ばせ。」
「はあっっ!?」
(天井って・・・・・・)
真上を見る。
首が痛くなってしまいそうなくらい高い。
「それが出来たらしばらくそのままにしとけ。おれは少しここを離れる。逃げられるとおもうなよ。外から特殊な鍵かけるからな。」
(ちょっなっなによーーーっっ)
無情にも鉄製のドアが閉められる音が響きわたる。
その後にガツンと音が聞える。
(本当に閉じ込めた!?)
ドアに駆け寄って開けようとするが、ビクともしない。
(なんかイヤだけど・・・・・・仕方ないか。能力アップの為の訓練だし。)
朝顔の種を取り出して伸びる様に念じる。
種から芽が出てだんだん伸びてくる。佐樹の頭を越えていく。
(いい調子!意外と楽かも?)
そう思ったとたん動きは止まり、蔓は種に戻ってしまった。
(えっやり直し?)
そんなことを何度か繰り返すことになる。
(無理だよーー天井までだなんて出来るわけないよーーー!!)
ダンダンッ
出入り口の重い扉を叩く音が響いてきた。
「誰!?」
「さっきここに来た克己だ!外から特殊な鍵がかけられてるけど大丈夫か!?」
「とっとりあえず大丈夫ですっ。」
(その様子だと本当に怜しか開けられないみたいね。
でもなんで戻ってきたのかな。)
「怜は容赦しないから心配で戻ってきたんだ!」
(優しいなぁ〜〜。)
「医務室からしばらくの間出てこれない程の怪我人が出たからなっ」
その言葉に佐樹の表情は凍りつく。
どうやら厳しすぎる、己の能力以上の特訓を何度か行うことでオーバーヒートしてしまい倒れるということが多いらしい。
(能力アップ以前に生命の危機を感じる!)
「なんの騒ぎだ。」
(騒ぎの元凶が来たみたいね。)
ドアの向こうから怜と克己隊長が言い争っているのが聞こえてくる。
(そうだっドアが開いたら怜に攻撃しちゃえ!!
いきなりなら避けられないよねっ。)
佐樹はドアに向かって、手にしている朝顔を伸ばし始める。
(いっけぇぇーーーーーーっっ
開けたら朝顔でビンタくらいはしてやるんだからっ!)
ギイィィィィィ・・・
鉄のドアが開けられる音が響き渡る。
(今だ!!生意気な顔にぶつけてやるわよ!)
「いでっっ」
(朝顔ビンタヒット♪)
うめき声があがったことで満悦の笑みを浮かべる。
が・・・・・
(あれ?怜が普通に立ってる?)
そういえばと、よろめいた相手の服の色がターコイズ色だと言うことに気づく。
(まって・・・あの色は・・・)
「だから言っただろ。飛び込むなって。」
(やっぱり克己隊長にビンタしちゃたの!?しかも怜の視線が痛い!)
「ごめんなさいっ大丈夫ですかっっ」
「だ、大丈夫さぁ・・・ははは・・・」
克己は笑顔が微妙にひきつってる。
「おい。」
(怜が睨んでる!ビンタしようとしたから怒ってるんだ!)
「ごめんなさいっつい出来心がっっ」
「はぁ?何いってるんだ。」
(あれ?)
「お前さっきいたところからここまで結構距離あるだろ。」
「え?」
距離とか全然考えてなかったことに今更気付く。
「とりあえず合格か。ほら」
(ん?)
佐樹の手にはオレンジジュースの缶。
(え、くれるの?)
「一息つけ。」
「あ、ありがとう。」
「あまりしごくと勇火隊長に注意されるからな。」
(あっそう。)
少しでもいいとこあると思ったことを心の中で訂正する。
「お前は本当に勇火のこと崇拝してるなぁ」
「別にいいだろ」
(克己隊長ってば言いすぎって思ったけどそうでもないみたいね。)
「どうして勇火隊長は特別なの?」
自分のチームの隊長だからって、特別な感情がなければ・・・
そう思ったところで思考を停止させる。
(と、特別な感情って・・・・・)
「佐樹ちゃん、こいつにとって勇火は最も大切な存在なんだ。」
「あの人は・・・俺が命をかけてもかけ足りないぐらいの人だ」
(やっぱり!!)
偏見の目で怜を見てしまいそうな自分を心の中で叱咤する。
(世の中にはいろんな人がいるから!ホモだからって嫌な目で見ちゃダメ!!)
「佐樹、なに変な顔してる?言っとくけどホモっていう意味じゃないからな。」
「あれ、違うの?」
「貴様・・・・・」
(怜の顔が怖いよ〜〜〜っ)
「まあまあっ何も知らなきゃ誤解されても仕方ねぇだろ?怜にとって勇火は命の恩人みたいなもんだ。」
険悪な雰囲気になりそうな2人に克巳が慌てて口を挟んでくる。
(もしかして怜の家族も事件に巻き込まれたとか?)
「こいつ、ここ来る前は自由がなかったんだ。そこから助けだしたのが勇火。」
(どういうイミ?)
「それって一体・・・」
「それは・・・」
「おい、余計なことしゃべるな。」
(うわーーっっ
怜ってば克己隊長の喉に水で作ったナイフ突きつけてるーーーっっ)
「悪ぃ、お前の問題だよな。もう言わねぇから物騒な物しまえよ。」
顔色ひとつ変えずに言う克巳の落ち着きに佐樹は感心してしまった。
克己が出て行ったあと、再び特訓を始める。
(怜の過去って・・・
そっちよりも今は足手まといにならないようにがんばらなくちゃ。)
NEXT STAGE・・・・・。
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