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愛してくれる優しい人(恋戦記/孟徳)





本が消えてしまった。
逃げなければ、と気づいた時にはもう鳥籠に誘い込まれた状態だった。
知略策略に長けた英傑相手に女子高生の自分が駆け引きで叶う筈もなかった。
だからと言って鳥籠の持ち主に心が靡くことはない。
靡けば楽だっただろうか。
それでもなまえは失った帰り道を思わずにはいられなかった。


「すごいねなまえちゃんは。こうなってもまだオレにすがってくれないんだから」


無邪気に笑う孟徳になまえは目もくれずじっと外を見つめていた。
しかし窓は形だけ。
窓の向こうには金属の板が打ちつけられていて景色を見ることは出来ない。
この離宮はなまえを閉じ込める為に孟徳が作らせたものだった。
最初から外界と隔離するならば窓など作らずに箱にすればいいのだ。
それをあえてせず見せつけるかのように形だけの窓を作らせた孟徳の、純粋な悪意となまえへの執着が伺えた。


「愛してるんだ。君を元の世界に帰したくない…」


「愛してる…?嘘つきですね孟徳さんは」


人の嘘を見抜ける孟徳は、初めてなまえと出会った時になまえにだけは嘘を吐かないと誓った。
しかしなまえは愛していると言うその言葉を信じられなかった。
愛しているなら何故こんなことをするのか、ここまでするのか、なまえには理解出来ないからだ。
一度は孟徳の元を逃げ出したなまえは、やはり本を引き合いに出され再び孟徳に捕まってしまった。
最初は興味。
好奇心をくすぐられた孟徳は保険を掛けるように本をなまえから遠ざけた。
流石にあれほど本に固執しながら本を置いてなまえが逃げ出すとは思わず、一度は逃げられてしまった。
雲長と一緒のなまえと再びあいまみえ、今度は絶対に逃がさないと捕らえた。
そして本の秘密を知った時、なまえは元の世界にやはり帰りたいと言ったため躊躇なく孟徳はその本を燃やした。


「オレは嘘が嫌いなんだ。なまえちゃんに嘘は吐かないよ」


ギシリと寝台に腰掛け孟徳はなまえの腰を引き寄せ肩口に口付けた。
びくりと固まったなまえに孟徳は堪えようのない笑いを噛み締めた。


「嗚呼、幸せだなぁ。いつでもなまえちゃんと会える。本も燃やしたからなまえちゃんはもう帰れない。このまま一生オレのそばにいてくれる」


「……っなんでそんな勝手なこと…」


目を閉じ涙を流すなまえに孟徳は初めて笑みを無くし悲しそうな顔をした。
しかし孟徳を見ないなまえは気づかない。


「君は自由な鳥だ。気紛れでオレのそばでさえずって、気紛れに飛んで行く。オレの気持ちも知らずに、置いて行くんだ。だから籠に入れることにした。オレは欲しいと思ったら我慢しない」


「だからって、私の気持ちを無視するんですか…っ!?」


「なまえちゃんの気持ちはいいんだ。そばにいてくれたらそれで」


確かに孟徳は満足していた。
どうしても相手を信じられない自分が、相手の気持ちを考慮する必要はない。
どんな形であれこうして自分のそばにいてくれるなら幸せなのだと確かに思う。


「愛してるよなまえちゃん」


君の心に届かなくても構わない。
俺が君を愛していて、君が俺の側を離れないならそれでいいんだ。


譫言のように繰り返し囁く孟徳に、なまえは絶望を感じながらせめてこの悲しい人を元の世界より大切にできたら楽になれるのに、と思いながら目を閉じた。

いつかそんな日が来るだろうか?


愛してくれる優しい人
だけど私は愛せない


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