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07.動き出す 影(前) ***

「お、名前!」

安堵したのも束の間。
今度は背後から声をかけられて、心臓が飛び出そうになった。
振り向くと山本さんがこちらに駆けて来る姿が目に入る。

「雲雀見なかったか?」
「雲雀さん…ですか?それなら先程お休みになると言って何処かに行かれましたよ。
 ご自分のお部屋か、お庭辺りにいらっしゃるんじゃないでしょうか」
「そっか、サンキュ!助かった」
「どうかされたんですか?」
「いや、ちょっとツナが呼んでてさ。
 それと今回名前の警護を俺と雲雀が任されたから、その話もしたくてな」

それは初耳だった。
普段は山本さんと獄寺さんにお世話になっているから、獄寺さんに何かあったのかと心配になる。
そんな私の心情を察してか、山本さんは優しく微笑みかけた。

「そんな顔するなよ。名前が心配するような事じゃないさ。
 獄寺はツナの右腕って立場上、今日はツナの側を離れられねーんだ」

だからパーティーには絶対参加しないであろう雲雀さんに矛先が向いたのだと山本さんは苦笑を浮かべる。

「笹川先輩がいてくれたらツナも迷わずそっちに任せるんだろうけどな。
 雲雀や骸は腕が立つし、頼りにはなるが、二人とも個人行動が多くて…ちょっと……、な?」
「骸……さん?」

聞き覚えのない名前に私はくるりと目を丸くした。

「ああ、そっか。名前は会った事がないんだったな。“六道骸”。ボンゴレ守護者の一人だ。
 …ただアイツと会うのは、ちょっと難しいかも知れねーけど」
「えっと、それはどうして…?」
「骸はほとんど表に顔を出さねーんだ」

山本さんの言葉に私は更に首を傾げる。
勿論マフィアの人なのだし、そう簡単に顔を見せる事はないのかも知れない。
でもここはそのマフィアの本拠地でもあるのだし、一度くらい会える機会だってあると思うのだけど。

「骸はちょっと変わった奴でな。マフィアが苦手っつーか、その……死ぬ程嫌いなんだよ」
「え???」
「──と、話し込んでる場合じゃなかった。
 もう直ぐ会場だ。俺はいったん雲雀のとこに行くけど、名前も戻るんだろ?一人で平気か?」
「はい、私なら大丈夫です」

もう少し詳しく六道さんに付いて聞いてみたかったが、これ以上山本さんを引き止めるのも申し訳ない。
それにしてもマフィア嫌いのマフィアの人とは、不思議な人も居るものだ。
どういう経緯でボンゴレの幹部になったのか、考えれば考える程、その“六道骸”と言う人に興味が湧いた。
山本さんは会う事は難しいかも知れないと仰っていたが、

「機会があれば会ってみたいな」

私はそう思った。



「それは光栄ですね」




その時、不意に声が聞こえた気がして、私は後ろを振り返る。
でもそこには誰もおらず、気のせいかと首を傾げた時、廊下の向こうで「名前!」と私を呼ぶ声が。
声の主は少し離れた場所からこちらを見る山本さんだった。

「何かあったら必ず俺達を呼べよ、直ぐ駆け付けるからさ」

雲雀さんと同じ事を言う山本さん。
こうして気にかけて貰える事を、私は心から感謝しなければならない。
大きく頷いて見せる私に、山本さんは笑顔でこうも続けた。

「あとその格好、結構似合ってるぜ」

それは完璧な不意打ち。
咄嗟に反論しようとした時には既に山本さんの姿はなく、顔を赤く染めた私だけが取り残されていた。
今のは山本さんなりの気遣いだったのだろうが『似合わない』と笑われるより、よほど恥ずかしい。
慌てたように踵(きびす)を返すと私は会場へ向かうべく、足早に歩き出す。
火照る頬をさすりながら廊下の角を曲がろうとした時、

──ドン!!

勢い良く誰かにぶつかってしまう。
反動で私の身体は後ろに傾いた。

「っ!」
「危ない!!」

刹那(せつな)、倒れ掛けた私の身体を誰かに引き寄せられる。

「大丈夫ですか?」

頭上から降り注ぐ優しい声色に、私は顔を上げた。
本当ならば、きちんとお礼を言わなければならないのに、その言葉すら飲み込んでしまう。

「クフフ。よそ見をしていてはいけませんよ。怪我をされては大変だ」

驚く私の目に飛び込んで来たもの。
それは、まるで宝石のような輝く二色の“オッドアイ”だった。


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