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Second Story[甲斐(Zippy)]
ヒロインは人魚姫の魂を持つ、淑やかな少女。




好きよ、大好き。
あなただけが好きなの。


何万回言っても足りないくらい好き。


でも、私の想いはいつもあなたには届かない。


私はどんなに恋焦がれても、この想いをあなたに伝える術がない。


私の心があなたに直接伝われば良いのに。


あなたを想う愛しさも切なさも哀しみも全部全部


そしたら、あなたの心に“私”を残せるでしょう?


恋は欲張りだけど、我が儘は言わないから


たった一度で良い、この魔法が解けてしまう前に。




私だけを見てくれませんか?






阿佐ヶ谷Zippyのメンバーである一樹と若菜が来ているのは甲斐が経営する輸入雑貨店エンドルフィン。

いつにも増して店内は賑やかだ。


「あのさー、ふーみん。これ何?」

「ああそれね、古代エジプトで昇る太陽のシンボルとされた物さ。」


土の塊のような物を持った一樹が甲斐に聞くと笑顔で答える甲斐。


(あれって…、確かタマオシコガネの。)


二人が話しているのを一人の少女が見つめる。

彼女の名はライラ。
このエンドルフィンのバイトだ。


(セッケンと消毒を出しておいた方が良いよね。)


土の塊を持った一樹が次に取る行動を予想してライラは慌ただしく手洗いにセッケンと消毒を用意する。


その間に一樹は甲斐から持ってるものがフンコロガシの転がすものだと教えられて土の塊のようなものをぼとっと落とす。


「若菜あ〜、ハンカチ貸して〜。」

「ヤダよ!!」


――クイクイ――


「ん?」


一樹の服を引っ張るのはセッケンの用意を終えたライラ。


(とりあえずこれ、こっちにセッケン用意したから。)


ライラは除菌ウェットティッシュを渡して手洗いのある場所を指差す。


「用意が良いね。
そっちにある手洗いにセッケンを置いてくれたみたいだよ。」

「ありがとう〜。洗ってくるよ。」


一樹が慌てて手洗いに走って行った。

苦笑しながら一樹を見送ると若菜がライラに笑いかける。


「こんにちは、ライラちゃん。」


若菜の挨拶に答えるようにライラはにこっと微笑む。


「うはぁ、相変わらず天使みたいな子だよなー。
ふーみんとこのバイトってのが不思議なくらいだよ。」

「あ、それ俺も不思議。」


若菜の言葉にハンカチで手を拭きながら戻ってきた一樹が同意する。


「一樹、お前ちゃんと手洗ったか?」

「洗ったよーっ、ライラちゃんが消毒も用意してくれてたし。」

「へー、気が利くな。」

(役に立ったなら良かったです。)


二人の会話を聞きながら嬉しそうに笑うライラ。


「本当に可愛いし気が利くし、ふーみんとこにいるのが不っ思議だよなー。」

「ちょっと一樹くん、僕に失礼だよ。」

「でも、俺も一樹と同意見だな。」

「だよなー!」


三人が賑やかに話しているのをライラは楽しげに見つめる。


「実際さぁ、ライラちゃんがバイトし始めたキッカケって何?」


一樹が問うと甲斐はライラとの出会いを思い出したように笑う。


(あの時、甲斐さんが私に話し掛けてきてくれたのがキッカケ。)


ライラもまた甲斐との出会いを思い出すように瞳を閉じる。


「ライラくんが僕のとこでバイトをし始める経緯は僕のナンパがキッカケだよ。」


懐かしがりながら、あっけらかんと甲斐が言う。


「マジで!?」


一樹と若菜が驚いて甲斐とライラを代わる代わるに見る。


(マジです。)


肯定するようにコクンと頷くライラ。


「ふーみんらしいというか……。」

「ライラちゃん、ふーみんみたいなのには気をつけなきゃ駄目だよ。」


若菜は呆れたように溜め息をはき、一樹はライラに真剣な顔で言う。


「だから一樹くん、僕に失礼だよ。
それにしても懐かしいなぁ。」


苦笑しながら甲斐は懐かしげに当時を振り返る。





「へぇー、君って珍しい雰囲気を持ってる子だね。」

「…?」


急に声をかけられてライラは驚きながら振り返る。


「あぁ、僕は怪しいものじゃないよ。
僕は甲斐史虎、エンドルフィンって輸入雑貨店をやってるんだ。」


笑顔で自己紹介をする甲斐を見てライラは目を見開く。


(その名前は……それに片目のお札、間違いない情報屋の甲斐…さん。)


裏の世界で知らないものはいないと言われる情報屋。

ライラも名前だけは知っていたが、まさか会うとは思っていなかった。


「その反応を見ると情報屋と名乗った方が良かったかな。」


おちゃらけながら言う甲斐にライラは微笑んでみせる。


「本当に不思議な雰囲気を持った子だね。」


ますます興味がわいたような様子の甲斐に、ライラは胸元に手をやり、ちょうど鎖骨の下あたりを見せる。


「!?」


そこには綺麗なアクアブルーのタトゥーのような模様が浮かんでいた。


「その痣は…っ!」


甲斐は見覚えのある、その痣に驚く。


(情報屋の甲斐さんなら知ってますよね。)


少し首を傾げながら微笑むライラ。


「あぁ、知っているよ。まさか本当だとは思ってなかったけどね。」


甲斐は平静を保ちながら話す。


「面白いね。良かったら君、僕の所に来ないかい?」


その言葉にライラは頷くように笑みを返した。






「じゃ、本当にふーみんのナンパだったんだな。」

「でもさ、その痣って何?
あると何かあんの?」


感心したような若菜の後に一樹が聞くと若菜は頭を抱える。


「一樹〜、いくら見習いでももう少し勉強しろよ。」

「な、何だよぅ。知らないんだから仕方ないじゃん。」

(痣を見ればわかるかと。)


拗ねたようにする一樹に小さく笑いながらライラが痣を見せる。


「あ、これって!」

「そう、水の聖霊の証、別名aqua。
人魚姫の魂を持つとされるものだね。」


甲斐はポンと手を叩く一樹に説明しながら、さりげなくライラが見せた痣をしまう。


「あー…、ふーみんも意外とわかりやすいな。」


甲斐の行動で察したように若菜が苦笑する。


「ん? どうかした、若菜。」

「いや、何でもないよ。
それより一樹、ライラちゃんの能力言えるか?」

「え? えーっと…?」


いきなり振られて困ったように考える一樹。


「一樹くん、これくらい即答出来なきゃ駄目じゃないか。」

「水の聖霊の力は龍神の加護と水を操れる事だ。」


遼がいきなり現れてポコンと一樹の頭を叩く。


(こんにちは、嵯峨さん。珍しいですね。)

「あぁ、ちょっと用があったんでな。
それにしてもこんな身近に凄い能力者がいたもんだな。」


微笑みかけるライラを見ながら感心したように話す遼。


「僕の嵯峨くん! 会いたかったよ!!」

「死ね!!!」


いつもの如く遼に飛び掛る甲斐にいつもの如く攻撃する遼。

だが。


「いつまでも俺にそうやってると本当に大切なものが悲しむぞ。」


遼は攻撃すると見せ掛けて甲斐に近付くと小声で忠告する。


「…バレてたのか……忠告、有り難くもらっておくよ。」


これには甲斐も驚いたらしく小さく溜め息をついて肩を竦めた。


「ふん、お前のためじゃない。俺にとってもライラは可愛いからな。
グズグズしてると掻っ攫われるぞ。」


遼に言葉にわかってると言わんばかりに甲斐は苦笑した。


「ところで水を操るのが、そんなに凄いのか?」


何かを一人で考えてたらしい一樹が首を傾げる。


「当たり前だ、馬鹿。」


そんな一樹に若菜と遼は深い溜め息をつく。


「俺らや武村あたりが束になった所で全く敵わないだろうな。」

「マジ?」


二人の説明に一樹は少し顔を引き攣らせる。


「水という水を操れるからね。
光も反射してしまうし、唯一対抗出来るのは風属性だけど。」

「勝てるかっつったら答えはNOだ。」

「何で?」


疑問符が頭に浮かんでるような一樹に遼が再度深い溜め息を吐く。


「血液も水分だし、雨なんかも操れるからだよ。」


苦笑しながら若菜が説明すると納得したように一樹は手を叩いた。


「はぁ〜、ライラちゃんって凄いんだな。」

(そんな事ないです。)


感心する一樹に複雑そうな顔をするライラ。


「まぁ、リスクが大きいからね。
意思疎通が出来るから気付きにくいけど、言葉を話せない訳だし。」


少し俯くライラの頭を撫でながら甲斐が言うと一樹はやっとで理解する。


「ついでに治癒能力も半端じゃないぞ。」

「え、そうなのか? 水ってすげー!」

「そこまで無知なお前の方がある意味すごいと思うがな。」

「何だよ、トオルだって…!」


(私の力を知ってもなお変わらない人達。甲斐さんには感謝してます。)


ライラは騒がしく言い合いをする三人を見た後、甲斐を見つめて微笑む。


「……僕は何もしてないよ、ただ君をナンパしただけさ。」


自分を見上げて楽しげに笑うライラの意思を感じて甲斐もまた嬉しそうに微笑んだ。


言葉は交わせないけれど、幸せだと思える毎日。


「そういえばトオルの用事って何なんだ?」

「あぁ、馬鹿一樹のせいで忘れる所だった。
おい、甲斐!」

「はいはい、出来てるよ。」


騒がしくて賑やかで楽しい、こんな日がずっと続けばと思う。


(けれど、人魚姫の最後は……。)


三人と甲斐の会話を少し遠くで聞きながらライラは切なげに瞳をとじる。


(もうすぐ……夢は終わりを告げる。)


誰にも教えていない真実を秘めながら。





数日後の真夜中、ライラはエンドルフィンにいた。


(時間がない。もうすぐ私はあの時と同じ歳になる。)


遠い昔、人魚姫が王子様にさよならを告げて泡になったその時の人魚姫の歳がライラにとっての夢の終わり。

例え好きな人と気持ちが通じ合っても想いを告げなければ泡となる運命。

言葉を発する事の出来ないライラには泡になるのをただ受け入れるしかないのだ。


これは誰にも教えていない真実。

ライラは独りで綺麗な月を仰ぎながら瞳を閉じる。

独りでひっそりと消える、それが1番良いと考えたから。


だが、時に運命は悪戯をする。


「…ライラくん?
こんな時間にここにいたのかい?」


不意に後ろから声をかけられライラはぎゅっと自分の腕を握る。


(あぁ…、やはり最後に逢ってしまうのですね。)


「良かった、今日は何だか様子がおかしかったから心配してたんだよ。」


ライラは自分に話し掛ける甲斐の方を向く。

くるりと振り返ったライラの髪がふわりと風になびく。


「ライラく…」


甲斐がライラの名を呼んだ瞬間。

ライラの顔が甲斐の顔に近付き



さよならの代わりに口付けを贈る。



言葉を持たない人魚姫からの精一杯の告白。



――大好きよ、あなたに逢えて良かった――



唇だけでそう伝え、微笑みながらライラは泡のように消えた。

ぽたり、と一粒の雫が甲斐の手の中に落ち

それは綺麗な真珠になった。


時刻はちょうど午前0時。


「え……?」


突然の出来事に呆然とする甲斐。

掌に落ちた真珠から意思が伝わる。

それは甲斐も知らなかった真実。


「……反則…だよ、ライラくん。
こんな、別れ方……。」


甲斐は手の中に落ちたライラの真珠の涙を握りしめる。


「何故、教えてくれなかった?
まだ僕は君に好きだとすら言えてないっ。」


ライラのいた場所に問い掛ける。


「言葉なんか通じなくても幸せだった。
僕は耐えられないよ、君がいない毎日なんて……。」


純白の真珠を握りしめる甲斐の手が震える。

唇に残る温もりが愛しいのにライラはもういない。


「こんなの僕は認めない!!」


甲斐は膝をつき両手で真珠を胸元に抱く。


「こんなに愛しくてたまらないのに!
君が…、いないなんてっ。」


ただ一つだけ残った真珠にポタポタと甲斐の涙が落ちていく。

君がいない、その事実に自分自身も堕ちていきそうだ。

暗い、冥い、闇い。

甲斐の瞳から光が徐々に失くなっていく。












――私はここにいる、消えてないよ――


「っ!!」


不意に優しい光が甲斐を包む。

その光は掌の真珠から放たれていた。


「ライラくん……?」


甲斐が名を呼ぶと真珠は光を放ちながら

一人の少女になった。


「ライラくん…っ。」


甲斐は思わずライラを抱きしめる。


「甲斐…さん、大好きです。」

「ライラくん…、言葉が。」


驚く甲斐にライラは微笑む。


「はい、今だけ。この光が消えるまで話せます。」


ライラは自分の胸元で光る痣に触れる。

少しずつ弱くなっていく光、それは少しの間の奇跡。

それを無駄にしないように甲斐はライラの両頬を優しく包みながら告げる。


「愛してるよ、ライラくん。
誰より何より、僕の特別だ。」

「嬉しいです。私も甲斐さんを愛してます、誰よりも。」


澄んだ優しいライラの声を聞きながら甲斐はライラを優しく抱きしめる。


「うん。でも、僕に黙ってた真実は後で説明してもらうからね。」


ライラを抱きしめる甲斐の肩はまだ少し震えていた。


「はい…、ごめんなさい。」

「戻ってきてくれたから特別に許してあげるよ。
だから、僕の名前を呼んでくれるかな。」

「あ…、史虎さん?」


ライラだけに向ける、愛しいと告げるような優しい甲斐の微笑み。

愛しさが溢れそうで、ライラも甲斐へと笑顔を向ける。


「史虎さん、好き…大好き。
あなただけを愛しています。」


そして、つかの間の奇跡は終わり
光の消えた痣は元のように戻った。

光が消えた痣を愛しそうに触れる。

例え少しの間でも声が聞けた事に感謝を込めて。





(あの、これはちょっと恥ずかしいです。)


今、ライラは甲斐の膝の上に座られている。


「離さないよ? 僕に黙ってた罰だ。
それに今は離したくないからね。」

(史虎さん……。)


ぎゅっと自分を抱きしめる甲斐にライラは観念したように身体を預ける。


「でも、どうして泡になった後に戻ってこれたのか不思議だね。」

(あ、それは…えっと。)


首を捻る甲斐にライラは瞳を閉じて顔を近付けた後、口パクで“好きです”と言う。


(これで“想いを伝えた”事になったみたいです。)

「なるほどね。
でも、どうせならもう一回キスしてくれた方が嬉しいな。」


納得し、そう言うと軽く口付ける。

赤くなるライラに小さく笑いながら甲斐は質問を続ける。


「じゃあ、何で泡になる必要があったのかわかるかい?」


その質問にライラは胸元の痣に触れる。


「もしかして、言葉を交わせたあの間の為?」

(…みたいです。)


コクンと頷くライラの胸元に甲斐はコツンと頭を乗せる。


「全く…まぁ、良いさ。
ライラの可愛い声が聞けたんだからね。」


微笑む甲斐に頬を赤くしながらライラも微笑み返す。


「もう独りにはさせないよ。愛してる、僕だけのマーメイド。」


ゆっくりと再び二人の唇が重なる。




二度目の人魚姫の恋はHAPPY END.




そして、二人の恋はこれからが始まり。




2007.10.1.初出
2018.08.07.再掲載

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