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悲しき嘘と願い[ヒノエ(遙3)]
遙かなる時空の中で3、ヒノエ×ヒロイン。
ゲーム主人公。十六夜記ルート設定。





ずっと手に入れたいと思ってた。

この腕の中に閉じ込めたいと。


始めはただの好奇心だったけれど

時折見せる切なげな表情と何かを強く想う強い瞳に、いつの間にか惹かれていた。


初めて本気で好きになった。

心の底から愛しいと思えたんだ。


けど、お前は別の世界からやってきた月の姫だから……。

オレが熊野を捨てられないように、お前にも大切に想う世界がある。


──だから──


愛の言の葉はいつも冗談まじりに囁いて

風に舞う桜の花びらのように

この手をすり抜けていくお前の姿を未練がましく見つめていた。


全く、オレらしくないよな。

お前が大切すぎて、臆病になるなんて。













今日の天気は一日雨。

振りしきる雨の中、邸は酷く静かで、オレの心を弱くする。

こんな日はライラに逢いたくなる。
こんな日はライラには逢いたくない。


「……はぁ、今日は帰るか…。」


こんな日は何もせずにいるのが一番だ。

そう思って玄関に向かって行く。


「…ヒノエくん……?」


…しまった。

考え込んでたせいで前方にライラがいる事に気付かなかった。


「どうしたの…?」


首を傾げる姿が可愛いくて、さらりと流れる髪が綺麗で

オレの胸はさらに苦しくなる。


「姫君、一人かい?」


オレはいつもの調子で声をかける。


「うん。皆、出掛けてるから。」

「そうか。白龍が一緒にいないのは珍しいね」

「……ねぇ、ヒノエくん。何か悩んでる?」


ライラはこういう時は勘が鋭いな。


「いや、そんな事ないぜ?」

「嘘。元気ないもん」


誤魔化してみても、真摯な瞳はアッサリとオレの心を見抜く。

気付いてくれて嬉しい気持ちと
気付かれたくない気持ちがせめぎ合う。

本当は誰よりも近くにいたいけど

これ以上、お前には近付きたくない。


「ヒノエく。」
「…この雨のせいかな」

ライラの言葉を遮ってオレは呟く。

ソラを仰ぎ、オレは続ける。


「…雨の音は静かで……つい感傷的になってしまうだろ?」


冗談っぽく言ってみる。

今、空を見つめるオレの心に映るのは

この空ではなくお前が帰って行く天(そら)。

それは気が遠くなる程の距離。

遠くて、遠くて……この瞳に映す事さえ叶わない場所。


「そうだね……。」


ライラも空を見ながら呟く。

それは何に対しての同意だろうか?

オレの心がライラに見えてる筈はないのに、そんな事を思ってしまう。


「…この手が…届けば良いのに……。」


天へと手を伸ばすライラ。

その瞳は哀しそうで。


「ライラ。」


思わず、その身体を抱きしめてしまう。



この世界に残ってほしい、例え何かを捨ててしまっても──。


元の世界に帰りたい、例え何かを失ってしまっても──。



それはオレの願い。


それはライラの願い。



決して相容れる事のない二つの願い。


「……私…好きだよ、この世界の事。
でも、私の世界も大切なの。」

「……………。」


ライラ自身が帰りたいと望むなら、叶えてやりたい。

なのに、懇願してしまいそうになる。



オレの傍から離れて行かないで──。


「きっと、帰れるよ。お前の世界に。」


口から出る言の葉は心とは裏腹なこと。


「ヒノエくん……うん、そうだよね。」


少しだけ淋しそうに笑うお前が愛しくて、哀しい。

何故、お前だったのだろう。

遠い遠い世界の月の姫。

絶対に一線を越えさせてはいけなかったのに。


「ゴメンな……。」

「何で謝るの?」

「…何で、だろうな。」

「変なの。」


オレはお前を離せなくなる。

お前はオレから離れる事に迷う。

それはとても苦しくて、潰されそうになる。

お前はお前の世界で何を想うのだろうか?

その瞳が涙に濡れる時、傍にいるのはオレじゃない。

自然とライラを抱きしめる腕に力がこもる。


「…ヒノエくん。
私、ヒノエくんが好きだよ。」

「ライラ……。」


その瞳には光る透明な雫があって

ライラなりのケジメなんだと悟る。


「…オレも好きだぜ。」

「うん。
でも、私は私の世界に帰るよ。」


ぎゅっと閉じられた瞳が余計に悲しくて。


「ああ。」


一言頷くのがやっとだった。

少しの沈黙。

気まずいとか、そんな雰囲気ではないけれど

ただ悲しかった。


「ね、ヒノエくん。
ここにいる間、一緒にいても良い…?」

「もちろんだぜ。」

「私、忘れないから…ヒノエくんの事、絶対に。」

「ああ、オレも忘れない…絶対。」

「…ありがとう。」


精一杯の儚い恋路。

それでもお前の笑顔は眩しくて。

可憐で、驚くほど強くて、誰より優しい女の子。

オレに初めて本当の愛を教えてくれた月の姫。


「今度はオレが強くなる番なのかもしれない。」

「え?」

「ふふ、お前に哀しい顔は似合わないって事。」


ライラの頬に残る涙に触れる。


「…っ……。」


途端に恥ずかしそうに頬を染めるお前を本当に愛しく想う。



そう、今度はオレの番だ。


お前がその細い腕で幾多の戦を乗り越えたように


今度はオレがこの世界の理さえ乗り越えてみせるよ。




オレにはお前も熊野もどちらも大事で


諦めるのは、らしくないんだ。


「姫君、覚悟しときなよ?」

「??」


キョトンとするレインの額に誓いの口付けを一つ落とす。

照れるライラに片目を閉じて誤魔化しながら、心で誓う。





オレを惚れさせた甘い罪は重いぜ。



一生をかけて共にいなければならないほどに。



ライラに一生をかけて貰うため、オレはこの名に賭けて手に入れてみせよう。



たった一つのオレだけの月を。




誰でもないお前だけを愛してるから




共にいよう、この時空さえも越えて──。




初出2006.4.26.
再掲載2021.1.3.

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